あの日はどうやって家に帰り着いたのか、記憶が今でも曖昧でよく覚えていない。渡された封筒の中を確かめたのは次の日の朝、夫と子供たちを送り出したあとのこと。あまりに金額が多くて何かの間違いだと思い、その日のうちに返しに行ったのだ。美紀はそれでも少ないくらいだからと微笑んで、次もよろしくねと背中を向けて去っていった。
まだ納得しているわけではないけれど、人前であんなことをされたのだからと思い直す。家に帰り着いてようやく実感が湧いてくると、両手で自分を抱き締めながら猛烈に身体が熱くなるのを感じた。爽やかな彼に後から抱き締められて、服の中で直に胸に触れられるなんて普段の生活の中ではあり得ない。非現実の中で麻里は妻でも母親でもなく1人の女になり、誰にも言えないけれど確かに感じたのだ。隠しきれない羞恥心は芸術家たちにとって初々しい果実に相当し、それこそが芸術なのだと美紀は言う……。
常人には理解が追いつかないけれど、一夜の夢を味うことでお金になるなら……。そんなふうに思い始めているのもまた事実なのだった。
次の日の夜、麻里の姿は控室にあった。すでに来ていた拓也は屈託のない笑顔で挨拶をしてくれたのに、麻里は恥ずかしくてまともに彼の顔を見れなくて、うつむいてしまった。今日も彼は黒いビキニパンツ1枚の姿でバスローブを身に纏い、先に部屋を出ていく。麻里も急いで用意された服に着替えようとして、手を止める…。それはただのノースリーブのワンビースなのに、両サイドが上から下までざっくり切れた信じられない服だったのだ。頼みの綱は細いベルトだけで、それでも横から下着は見えてしまう。元々は下着姿になることを了承しているから、文句は言えないかもしれないけれど………。
ピンストライプの白色ワンピースは皮肉にもこの日、黒い下着の上下を身に着けてきた麻里を妖艶にセクシーに魅せた。薄手の生地は下着を浮き出させ、ポーズをとる麻里の身体の横からは下着の一部が顔を覗かせる。まるで恋人同士のように抱き寄せられて、腰に彼の手が添えられた。胸がキュンとするような高鳴りを覚えながら、その次の瞬間には息を呑む緊張に包まれる………。
生徒たちが見る前で隙間から見える肌を移動する彼の手が、ショーツのサイドに指をかけたのだ。
1本、2本……4本の指が差し込まれて肌から下着が浮くと、すぅ~っと下腹まで横移動をしていくではないか。その頃にはまた後から抱き締められる格好になり、麻里の身体は生徒たちに晒される。自分の肘を持った美紀は、腕を立てて口元で爪を噛みながら麻里と拓也を黙って見詰めている。とても意見を言える雰囲気ではなく、拓也も美紀の指示に従っているに過ぎないのだから彼を責めることもできそうにない……。
不意に美紀が頷いたように見えたのは、気のせいではなかった。拓也の手が麻里の原生林を掻き分けながら突進み、ついに丘の上に到達する。そして麻里の断りもなく柔らかな恥部を厚い雨雲のように覆ったのだ。抗い突き上げる気持ちに必死に蓋をして、固く目を閉じる麻里のそこに彼の手の温もりを感じる。恥ずかしくて溶けてしまいそうな身体の体重を受け止める彼は、最後の砦のように麻里には感じられた。だって、支えられていなければ、倒れていたのだから………。
麻里は気付いてしまった。建前では道徳心を振りかざすくせに、本音は違うところにあると。
彼は決して性的な刺激をしてはこなかったというのに、正直な身体が反応してしまったのである。
麻里は自分でも欲していることを自覚してることに顔を背けていたから、認めるわけにはいかない。既婚者なのだから………。
拓也自分の指が濡れていることに、気付いていた。性的な刺激は全くしていないから精神的に、つまりは麻里が興奮しているとにほかならない。
女性は頭で感じないと身体に変化が現れないことは、このモデルの仕事から学んでいたのだ。
美紀は拓也の表情、麻里の置かれた状況から何かを察していた。伊達に何年もここの講師をしてきたわけではなく、同じ女として彼女の立場ならきっと気持ちが揺れ動いていると思うから……。
美紀と視線が合うと、彼女らしいサインが送られてくる。黙ったまま、頷いて見せるのだ。長くなりつつある彼女との付き合いで、それが何を意味するのか拓也には嫌でも分かる。先に進めて新たな段階に入りなさい、そういう意味である。
その美紀が助け舟を出すつもりなのか、麻里にし声に出して指示を出す。
彼に寄りかかってもいいから、なるべく動かないでいてくれる………?
あとは彼に任せて、自由にしてていいわ………。
自由にしてていいって、どういうことなのか。
その意味を理解する前に、麻里はハッとした。
蠢き出した彼の手が敏感なところに触れて、生徒たちに悟られたくなくて必死に平静を装った。
腰が落ちそうになるのを堪えながら、羞恥で身体が燃えそうになる。嫌、駄目、気持ちいい……。
うねる腰の動きをもう片方の彼の腕が抑え込み、軽いタッチで黙らせる。いつの間にか拓也にしなだれかかり、目を閉じた麻里がその甘さに飲み込まれていく様子を、生徒たちは見逃さない。
甘くとろ〜んとしていた麻里の顔、その眉間に皺が刻まれると小刻みに顎が上がっていく………。
浮かせたショーツの中で繰り返しのの字が描かれ続け、指が上下に動かされるとガクンっと麻里の膝が落ちそうになる。ウネウネとする麻里の腰が拓也の股間を自らのお尻に押し付ける形になり、逞しい姿に成長を遂げていく。ついに辿り着いた窪みに吸い込まれるように、2本の指が飲み込まれていった……。
拓也の指の動きに合わせて麻里の腰も動き、目を閉じたままの麻里が手を後ろに回していく……。
人前であることを忘れた麻里は自分の世界に入り込み、息を吸うより吐き出すことが忙しくなっていく彼女は、バスローブに隠れた拓也の股間を握る。まるで離さないつもりであるかのように締め付けられる指、股間を弄られる麻里の手が彼女の強欲さを露わにする………。
不意に視線を上げた先にいた美紀が、さっさと先に進めなさいよと顎をしゃくって見せてくる。
腰を抑えていた手でワンピースの裾をゆっくり手繰り寄せると、彼女の身に着けるショーツを脇に寄せる。そこまでした所で我に返った麻里が自分の置かれた状況に気付き、後ろを振り返る前に息の詰まる圧迫感に仰け反りそうになる………。
絶望的な気持になって前を向けない麻里は、ただ身体が前後に動く恥ずかしさに身を焦がす。
目を閉じて暗闇の中の逃げ込んだ麻里に、何かが追いすがる。とても魅力的な相手はその手を振り払うことが難しくて、川の流れにそのまま流されるように麻里は必死に息継ぎをするだけだった。
熱くて大きい杭が何度も何度も繰り返し往復を続け、今の状況よりも手前の世界を必要とする身体が心を引き寄せて麻痺していく。自分たちの周りに生徒たちが集まり、その異常さに危機を覚えながら逃げ出すこともできない。無条件に気持ち良くて、全てを享受する身体が言うことを聞かない……。堪らない……堪らない……堪らない………。
麻子のような締め付けだけではなく、ペニス全体を吸着するような麻里の中に動揺を覚えた。
気を抜けば一気に射精してしまいそうで、奥歯を噛み締めながら腰を動かさなければならない。
まだか、まだなのか、美紀を見ても彼女は納得した顔を見せようとはしない。今まで経験をしたことのないタイプの麻里に、屈指そうになる。
常に纏わりついて離れない膣壁に、限界が近づいてくる……。
耐え難く甘い波が幾度も打ち寄せてきて、もう立っていることが出来なくなってきた。
彼の熱い吐息が耳に吐きかけられ、もっともっと欲しくなる。気持ちいい……凄い………もう…………。
暗闇の中が一瞬、眩しくなる。
上下左右の感覚が分からなくなり、膝から崩れ落ちるのが自分だと知るには時間が必要だった。
彼が抱えてくれてなかったら、頭を打っていたかもしれない。繋がったままの彼のペニスが脈動しながら射精を繰り返す、それが辛うじて分かったことだった。
不意に現れた美紀が横に椅子を置くと、何も言わず踵を返して去っていく。放心状態の麻里は何も疑うことなくただそれを見詰め、拓也は美紀の考えを理解して座った。彼女の意思は続行である。
拓也に引き寄せられるがまま彼の膝を跨いだ彼女は、少しだけ腰を浮かせられると弾かれたように頭を跳ね上げる。何も考えることなく自分の身体が命じるままに、麻里の腰が動き出す。
拓也の首を両手で掴んだ麻里が、本格的に腰の躍動を始めた………。
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