大学を卒業してすぐに家庭に入った麻里は、専業主婦でいられることをよく羨ましがれけれる。
でも社会とのつながりが薄くなることの寂しさは理解されることはなく、子供と夫の世話で1日が過ぎていく寂しさを愚痴ろうものなら、口では慰めの言葉を吐きながら贅沢だと本音を書いた顔で見詰めてくる。誰にも分かってくれない苦悩を抱えて20代は過ぎ去り、30代に入った今は、別の悩みを抱えるようになった。
手に入れた獲物に餌はやらないではないけれど、幸せを手に入れた夫は家庭で良き夫をしているとの自負がある。2人目の子供が出来るまでは毎晩のように求めてきた夜の営みも、10年も経つと週に1度……いや、2〜3週間に1度あるかないかということに甘んじている。慣れやマンネリという現実から目を背けて仕事に逃げる夫は、休日も趣味のゴルフや釣りに出かけて家を空けることが多くなった。子供の手が離れるようになった麻里もパートで外に出て、ママさんバレーでストレスを発散するようになったのだ。
麻里だって黙って手をこまねいていたわけではない。2度の出産で崩れた体系をヨガで直し、開いた骨盤だって元の位置に苦労をして戻したのだ。
妊娠中だってお腹に妊娠線が残らないよう、毎日クリームを塗り続けて結果を出した。ただ1つどうしようもなかったのは、なんだか緩くなったと夫が言うようになったことである。それは麻里もちょっとしたことから尿漏れをするようになり、もしかして関係があるのかも知れないと思っていた。
調べてみると骨盤底筋という筋肉があって、それが出産で緩むことで尿漏れと膣の緩みの原因になっているらしいのだ。これは多くの経産婦が経験するらしく、麻里は洗面的なトレーニングで尿漏れを克服することに成功する。問題は膣だった。
膣も筋肉だから鍛え方次第では強化が可能らしく、そのためのグッズがあると知って早速取り寄せたのだ。
お世辞にも人に見せられるものではなく、膣に挿入する玉に紐で繋がった重りをぶら下げるという物である。麻里は抜け落ちては挿入を繰り返し、膣を締めて中から落下しないように、思ったよりも過酷で地味なトレーニングを半年も続けた。
他には微弱な電流を放出するシートをお尻の下に引いて、その上に座るだけというものである。
それは神経に電流の刺激を与えて筋肉を収縮させる数多の商品を応用したグッズで、それは肛門と膣が同時に収縮し、骨盤底筋が鍛えられていることが如実に実感できる優れ物………。実際あの重りの付いた膣の強化グッズを1度も落とすことがなく、楽々と持ち堪えることが可能になったのだ。
なのに…………。
妻の麻里はプロポーションを戻し下半身も改良したというのに、夫は中年太りを改善しようともせず、疲れているからとベッドで背中を向けられるだけの夜が虚しかった。まだ30歳を過ぎたばかりであり、授乳だって上手にしてきたから乳房は少しも垂れておらず痩せてもいない。街に出れば嬉しくもないナンパを未だに受けるというのに……。
あの話を持ちかけられたのは、そんな時だった。
多くは望まなず少しだけ女に見られたい、それだけなのだ。学生たちといっても芸術家を志すプロの卵たちだというし、下着姿になると言っても全てを見せるわけではない、恥ずかしさを少しだけ我慢すればお金だって頂けるのだ。夜の時間をすこしだけ空けて子供たちを預けることに不服そうな夫だったけれど、妻の麻里に負い目を抱く彼に文句は言わせなかった。友達に頼まれて短い時間の介護施設の仕事を手伝うのだと、簡単な嘘をつけばお金のことは辻褄が合う。
何もそこまでする必要はないのに身体の隅々までシャワーで洗い流し、いちばんお洒落な下着を身に着けてジーンズとブラウスの格好で外出する。
麻里は久しぶりに胸がドキドキしていた……。
出迎えた美紀に案内されて控室に入ると、麻里とそう年齢が変わらない青年が待っていた。少しだけ歳下だろうか、緊張して名字は覚えていないけれど下の名前が拓也だというのは印象的で胸に残っている。いわゆる筋肉ムチムチという暑苦しい身体ではなく、程よい筋肉を纏った爽やかさを漂わせている。彼は挨拶もそこそこに目のやりどころに困る麻里を気にもせず服を脱ぎだし、魅力的な素肌に白いシャツを着ると、上から3つボタンを開けたままにする。下も白いパンツを履いたのだけれど、下着の前の盛り上がりを目にして気付かなかったふりをした。いわゆる勃起をしていないことは見て分かったけれど、夫の2倍はあるかもしれないサイズ感に胸がドキドキする。
ちょっと、彼女はヌードモデルじゃないのよ……?
美紀に咎められた拓也は初めて気付いたように、バツの悪そうな顔をして麻里に頭を下げた。
彼は普段ヌードモデルもこなしているから、ベアの女性ともここで着替えるのが当たり前のことだから………。
先日の話で理解してもらったと思うけど、人間の美しさがテーマなの……。
内なる魅力をその身体で表現して、生徒たちがそれをキャンパスに描いていく、それだけよ……。
何も難しいことはないから、あたしが指示を出すからその通りにポーズを決めるだけ……。
今日は初回だから用意したワンピースのどれかを好きに選んでいいわ、彼がリードするわ………。
出来るわよね…………?
賽は投げられた。
それじゃ、僕は先に行ってますね………。
気を使って拓也が美紀の後を追って、控室を出ていく。心細かったけれど、今は一人にしてくれるのがありがたい。
上からしたまでフロントにボタンが並んだ白色のワンピース、脇の下から腰まで両側にファスナーが付いて下がラップスカートになった水色の珍しいデザインワンピース、最後に上がノースリーブになったロングスカートの白色のワンピース……。
悩んだ末に麻里は、水色のワンピースを選んだ。
こんな凝ったデザインは目にしたことはない。
スカート部分がラップスカートになっているなんてワンピースでは普通はありえないからだ。
そしてこれは麻里が2度目の罠にか掛かった瞬間であることは、まだ気付いてもいないのだった。
横に立たれて腰に手が回される、彼の胸に顔を埋めてやや顔を起こす、椅子に座らされて首の後からふんわりと覆い被らされる………。
まるで学生時代の青春を取り戻したような、気恥かしさが麻里をドキドキさせる。こんなことでお金を貰えるなんて、いいのかな…………。
静かな空間にキャンパスを描く生徒たちの鉛筆の音が、ただただ聞こえるだけだった。
じゃあ……椅子から立って、後から彼女を抱き締めてくれるかしら………。
麻里は美紀の言われた通り彼に抱き締められ、彼の身体が次第に変化していくことに気付くことになる。
男性の生理現象が起こるのは当たり前だから、気にしないでね………。
それが起こらない女性モデルなんて価値はないと思っていいわ、だから自信を持ってね………。
美紀はそう言っていたけれど、本当にそうなのだろうか。麻里はお尻に硬い杭が押し付けられるのを無視して、彼の胸板から伝わる心臓の鼓動がいやらしく感じられるようになっていた。彼の左腕がお腹に、右腕が胸の下に回される。彼の心臓の鼓動につられて麻里のドキドキが早くなる。
その表情、いいわね………。
もっとセクシーな顔で、遠くを見てくれない……?
困惑するばかりの麻里の耳元で、何かを囁く。
僕に任せて、遠くを黙って見てて…………。
不意に彼の手が服の上から、胸を包み込む。
かぁ〜っと顔が熱くなり、耳が赤く染まる。
性的なことでこんなに恥ずかしい思いをするのは、いつ以来のことだろうか……。
いつの間にかお腹にあった彼の左腕が胸の位置まで上がり、右手が左脇に、左手が右脇のファスナーをジリジリと引き下げていく。
麻里は硬直する身体で動けず、服の上から背中のホックを外されるのにも抗えないまま侵入してくる彼の手が、ブラのカップを押し上げるのを許してしまった。
遠くをただ見詰める麻里の顔が、羞恥に染まる。拓也の手が夫しか触れない場所を包み込み、その温もりが忘れていた情欲を呼び起こす。それを悟られないようにしていたけれど、乳首を弄び始めた彼に怒りを覚えていた気持ちが今は焦りに変わっていく。否が応でも反応を見せる乳首から麻里の本音を見抜いているのではないかと思ったからだ。
生徒たちは服の内側で胸を覆う手が不自然に蠢くのを見て、麻里の表情から全てを察した。
もう、時間の問題だと………。
彼らのキャンパスには眉尻が少し下がった困り顔の女が、はっきりと欲情の色を浮かべているのを如実に描き出していた。
服の下で摘まれた乳首が形を変えてるたび、吐息が震えていることに緊張で本人も気付かぬまま、また薄く唇が開く……。
ただ、ただ………恥ずかしかった。
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