そして10年の時が流れた。
ミナミはあれからすぐに真田と縁を切り、娘のレナのためだけに生きてきた。
男を一度たりとも近づけることはなかった。
そしてヤマトからの連絡も一切無く、ミナミからの連絡も一度も繋がることはなかった。
愛する人に償うどころか謝罪も出来ない。
レナを幸せにすることだけが償いだと自分に言い聞かせるしかなかった。
あの日の夜、レナは母がヤマトと別れたことを悟ったようだ。
感の良い子だ、その原因が母親であること気づいているかも知れない。
しかし娘は母を問いただしたり責めたりはしなかった。
逆に急に大人びたようにミナミにより優しく接してくれるようになった。
レナは美しい女に成長した。
それだけではない。
優しく思いやりのある思慮深い魅力的な女性。
若い娘にありがちな浮かれて流されやすいところがひとつも無い。
美しい顔立ちにはやはり母親の面影がある。
そして体型も母親譲りの細身で胸が豊かだ。
普段はGカップの巨乳が目立たないように心がけているようだ。
成績も優秀で自慢の娘に育ってくれた。
ただ男の影が全くないことが気になった。
控えめに見ても娘は異性を惹きつけるはずだ。
それなのに友人はほとんど女性、仲の良い男の子もいることはいたが明らかに異性の関係では無かった。
さすがに心配になったミナミが大学生だったレナに恋人の有無を尋ねたことがあった。
「恋人なんていらない、、、興味がないの、、、」
そう応えるレナに、ひょっとして自分のせいかとミナミは思ってしまったこともある。
自分が男を近づけないから、、、
しかしすぐに考え直した。
焦ることは無い。
いずれレナの興味を惹く素晴らしい男性が現れる。
それが運命ならば必ず二人は惹かれ合う。
そしてきっと二人は結ばれる。
わたしは自分の愚かな行いでそれを逃してしまった。
だからこそレナには絶対に幸せになって欲しい。
そんな娘がときおりスマホを幸せそうに操作している姿を頻繁に見かけるようになった。
画面を見て嬉しそうに微笑んだかとおもうと、スマホを胸に抱きじっと目を閉じて物思いに耽っていることもある。
何を思っているのだろう?
母親には言えないだけで恋人がいるのかも知れない。
しかしミナミは余計な詮索はしないと決めた。
娘を信じている。
レナはわたしのような間違いは絶対におかさない。
そんなレナが大学を卒業し入社したのはヤマトの勤めていた会社だった。
どうしてヤマトの会社を選んだのか?
知らなかった?ただの偶然?
確か超がつくほどの一流企業だ。
しかも勤めたい職場のランクは常にトップクラスだ。
それだけに競争率はかなり高かったはずだ。
改めて娘の優秀さに舌を巻いた。
そして結局、どうしてその企業を選んだのかは尋ねることが出来なかった。
勤め始めたレナはとても生き生きしていた。
仕事が愉しいのか、気の合う同僚に恵まれたのか、、、
レナは会社のことを余り話したがらない。
ただ愉しい、やり甲斐があるとしか言ってくれない。
ヤマトはまだというか当然勤めているはずだ。
レナにはあったのだろうか?
そもそも入社したことを知っているのだろうか?
しかしあれだけの大企業だ、、、社員は大勢いるはず
だ、、、
そういえばヤマトの部所は人事部、、、
知らないはずがない、、、
もう間違いない。
ヤマトはレナが入社したことを知っている。
それでなくても実の娘のようにレナを可愛がっていたのだから、、、
わたしがその全てを壊した、、、
だからレナにヤマトとのことを聞くことは出来ない。
レナが就職して二年が過ぎた。
突然レナがミナミに告げた。
結婚すると、、、
「お母さん、話があるの、、、」
「なによ、、、急に改まって、、、」
「いいから、こっちに来て、、、座って、、、大切な話なの、、、」
二人はリビングのソファに腰をおろした。
「わたし、結婚する、、、」
「ええっ、、、結婚て、、、相手は誰なの?わたしの知ってる人?」
レナは頷き、しっかりとミナミを見つめてきた。
「わたし、、、川島レナになる、、、」
川島、、、まさか、、、違う人だよね?
「ヤマトさんよ、、、わたし、、、彼を愛しているの、、、」
そんな、、、
でも心の奥では確信していた、、、
二人は出会っているはずだ、、、
動揺していた気持ちも意外に早く収まった。
「反対する?」
「そんなわけ無いでしょう、、、彼だったら必ずレナを幸せにしてくれるわ、、、」
美しいミナミとそっくりな瞳から涙が溢れ出す。
「お母さん、、、」
レナはミナミに抱きついていく。
「レナはわたしの一番大切な娘よ、、、幸せになりなさい、、、」
「お母さん、、ありがとう、、、わたしもお母さんが大好きだよ、、、」
しゃくり上げながらレナが泣き出す。
ミナミが優しく背中を撫でる。
「幸せになるお嫁さんが泣いちゃだめよ、、、」
「お母さんだって、、、泣いてるよ、、、」
いつしかミナミも涙を流していた。
「嬉しいの、、、レナ、本当におめでとう、、、そして、ありがとう、、、」
自分の愚かな過ちで失ってしまった大切な人、、、
その人を娘が取り戻してくれた、、、
つづく
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