【話術を制するものはマンコを征す】
東京・新宿にある俺の女性用風俗店で、樹の「ゴッドハンド」への道は始まったばかりだ。清潔感を徹底的に叩き込んだ次は、話術だ。セックスの技術ももちろん重要だが、女は言葉にも敏感だ。どんなに良いセックスができても、会話が退屈だと評価は下がる。
「清潔感については分かったな? よし、次はお前が女を相手にする上で、もう一つ重要な要素、話術についてだ」
俺がそう切り出すと、樹は再び真剣な表情で俺を見つめた。昨日の講義で、彼はすでに多くのことを吸収していた。その成長意欲は、俺が思っていた以上だ。
「世の中には、話が上手い男はいくらでもいる。だがな、女が求める会話ってのは、男が思ってる『話が上手い』とは少し違うんだ」
俺はプロジェクターを起動し、再びパワーポイントのスライドを映し出す。今日の資料も、俺が長年かけて集めた「女の心理」に関するデータが詰まっている。
「まず、根本的な話からしよう。男と女じゃ、『会話』に求めるものがそもそも違うんだ」
俺はスライドをめくる。そこには、ネットで拾ってきた、狩猟をする男性のイラストと、村で会話する女性たちのイラストが並んでいる。
「人類の歴史を紐解けば分かることだが、男は、昔から仲間と連携して狩猟をしてきた。獲物を効率的に捕らえるために、具体的な情報交換や、論理的な指示出しが重要だった。つまり、目的を達成するための手段として会話を進化させてきたわけだ」
俺は指でスライドを指し示しながら、熱弁する。
「だから、男同士の会話では、結論を急いだり、問題解決に重きを置いたりしがちだ。たとえば、誰かが『体調が悪い』と言えば、『病院に行け』とか『薬を飲め』とか、すぐに解決策を出そうとするだろう?」
樹は小さく頷いた。確かに、男同士の会話ではそういう傾向がある。
「一方、女はどうか? 女はな、村で他の女性とコミュニケーションを取りながら、円滑に共同体を維持してきた。情報共有や感情の共有、共感が何よりも重要だったんだ。つまり、関係性を深めるためのツールとして会話を進化させてきた」
俺は、樹の目をじっと見つめた。ここが、男と女の会話における決定的な違いだ。
「だから、女同士の会話では、結論がなくても平気だ。むしろ、共感や感情の共有を重視する。誰かが『体調が悪い』と言えば、『辛かったね』とか『大変だったね』と、まずは相手の気持ちに寄り添おうとする。これが、男と女の会話の根底にある違いだ」
樹は、目から鱗が落ちたというような表情をしてた。
「じゃあ、女が男に求める会話ってのは、つまりどういうことか。結論から言うと、**『共感』と『感情の共有』**だ」
俺はスライドを次のページに進める。そこには、「女が求める会話の三原則」と書かれている。
「一つ目、『否定しない』。女が何かを言った時、たとえそれがおかしな意見だとしても、まずは否定から入るな。共感を求めている時に否定されると、女は『この人は私の気持ちを分かってくれない』と感じてしまう」
俺は具体例を挙げて説明する。
「例えば、女が『今日、仕事で嫌なことがあったんだ』と言ってきたとする。そこで『それはお前が悪い』とか、『もっとこうすればよかったんだ』なんて言ったら、女は瞬時に心を閉ざす。正論は求めてないんだ。まずは『そうだったんだ、辛かったね』と、共感してやれ」
樹は真剣な表情でメモを取っている。彼の真面目な性格が、この講義では良い方に作用している。
「二つ目、『質問で掘り下げる』。女が話している内容に対して、興味を持って質問を投げかけろ。ただし、『なぜ?』とか『どうして?』みたいな詰問するような質問はダメだ。相手の感情や状況に寄り添うような質問をするんだ」
「例えば、『辛かったね』と共感した後に、『具体的にどんなことがあったの?』とか、『それでどう思ったの?』と、相手の気持ちをさらに引き出すような質問をしろ。そうすることで、女は『この人は私の話に真剣に耳を傾けてくれている』と感じる」
俺は、さらに畳み掛ける。
「三つ目、『褒める』。女はいくつになっても、誰かに認められたい、褒められたいという欲求が強い。服装でも、髪型でも、ちょっとした仕草でもいい。些細なことでもいいから、具体的に褒めてやれ。ただし、上っ面だけの褒め言葉はすぐに見抜かれる。心からそう思ってることを伝えるんだ」
俺は、資料の最終ページに目を向けた。そこには、「会話において女が求めている返答」と書かれていた。
「女はな、必ずしも正解を求めてるわけじゃない。時には、ただ話を聞いてほしいだけ、共感してほしいだけ、認めてほしいだけなんだ。だから、『共感』『傾聴』『承認』。この三つを意識して会話しろ」
講義を終え、俺はプロジェクターの電源を切った。樹は、深く息を吐き出し、何かを考え込んでいるようだった。
「さて、理論だけじゃ身につかない。実践あるのみだ」
俺は、受付に座っているハナちゃんを呼び出した。
「ハナちゃん、ちょっとこっち来てくれ」
ハナちゃんは、いつものように面倒くさそうな顔でやってきた。
「今度は何? また面倒ごとなんでしょ」
「いや、面倒ごとじゃない。樹に、お前と打ち解ける会話をさせてやりたいんだ。もちろん、仕事の話はなしで、普通に雑談する感じでな」
ハナちゃんは、樹の顔を一瞥し、鼻で笑った。
「は? この人が私と打ち解ける会話? 冗談でしょ」
樹は、ハナちゃんの辛辣な言葉に、顔を赤くして俯いた。
「いいから。お前は普段通りでいい。樹、お前は今日の講義で学んだことを実践してみろ。まずは、ハナちゃんとの間に、壁を作らずに話ができるようになることが目標だ」
俺がそう言うと、樹は意を決したように顔を上げた。
「はい……頑張ります!」
そして、樹はハナちゃんに向き直った。ハナちゃんは、腕を組み、冷ややかな視線を樹に向けている。
「あの……ハナさん」
樹は、震える声で呼びかけた。ハナちゃんは、何も言わずに樹を見つめている。
「その……今日の服、とてもお似合いですね。そのブラウス、色合いがとても素敵です」
樹は、今日の講義で学んだ「褒める」を早速実践してきた。ハナちゃんの着ているブラウスは、シンプルなものだが、実際彼女によく似合っていた。
ハナちゃんは、一瞬驚いたような顔をした後、すぐにいつもの仏頂面に戻った。
「ふーん。で? それが何?」
ハナちゃんの容赦ない返答に、樹はたじろいだが、彼はすぐに気を取り直した。
「いえ、あの…本当に素敵だと思ったので。ハナさんは、いつもセンスがいいですよね」
樹は、さらに褒め言葉を重ねた。ハナちゃんは、わずかに口元を緩めた。その変化を、俺は見逃さなかった。樹の褒め言葉は、彼女の心に少しだけ響いたようだ。
「……他に何かあるの?」
ハナちゃんは、まだ警戒心を解いていないが、先ほどよりは幾分か柔らかな口調になっていた。樹の挑戦は、まだ始まったばかりだ。しかし、この一歩が、彼を大きく成長させるだろう。
※元投稿はこちら >>