「東京なんて初めて来たな…。せっかく来たんだし、思い出作りに東京見物でもしようかな。」
中本との面会―自分の義務を果たした康輝は、東京観光とばかりにビル街の歩道を歩いていた。しかし、慣れない都会の喧騒の中、やはり道はわからない。街中なので歩きスマホもできない。
「隙間道に行こうかな」そう呟き、ビルの間の道に入っていく。
(東京はおしゃれな家が多いな…)
そんなことを考えていると、転んでしまい意識を失ってしまう。
「あれ…ここは…」
次に目を覚ました時、康輝は自宅のベッドに戻っていた。あれは夢だったのか、そう思った。
「ああ、夢だったのか。いい夢見させてもらったな。」
そう言いつつスマホを起動し、スポーツアニメAを検索する。
(二階敏明:梶原嵩夫…!?)
康輝は驚き、思わず声を上げかけてしまった。まさか、俺は本当にタイムスリップし、二階役を梶原嵩夫にするように頼んだのか。
「やった…やったのか…俺は…あの子を守ったのか…」
推しキャラを救えた(?)喜び、東京観光の思い出、それに自分のエゴでアニメのキャストを変えてしまった、少しの罪悪感。感情が環状線のように頭の中でぐるぐると巡り、複雑に絡み合っていく。
朝が来た。正直寝不足の気もあったが、なんとか耐えて起きた。過去での自分の行動が、確かに未来を変えたのだ。込み上げてくる喜びを必死に押し殺し、康輝は何食わぬ顔で学校へと向かった。
だが、康輝は感情を隠しきれていなかったようだった。
教室に入り、荷物の準備をしていると、派手なネイルを弄びながら、金髪ツインテールの黒ギャルの同級生・加賀井紗々(かがい さしゃ)がニヤニヤとこちらを見ていた。
紗々は康輝に近づき、こう言い放った。
「やあ、康輝。今日やけに嬉しそうじゃん。何かいいことでもあったの?」
紗々。彼女はいわゆるギャルで、クラスの中心にいる人物。康輝が好きなアニメ――好きなアイドル声優と推しのキャラの声優が出演し、そのアイドル声優が主題歌を歌っているアニメのキャラクターに名前が似ているため、康輝はそのキャラの名前から取って、陰で「サーシャ」と呼んでいた。
突然の指摘に、康輝は内心で動揺しながらも、平静を装って答えた。「いや。気のせいだよ」
「そうなの。そう言うならそれ以上詮索しないけどさ。何でも相談乗ってあげるよ」
(ギャルの人間観察力を舐めてはいけなかったか…)
しかし、康輝の異変に気づいたのは、紗々だけではなかった。
「おう、ヤマコー。何かいいことあったのか。やけに嬉しそうじゃねえかよ」
親友の荻原誠一が、俺の顔を見るなりそう言ってくる。俺と同じくアニメや漫画が好きな誠一は、成績がクラス上位の、いわば優等生だ。誠一の慧眼と言うべきか、俺が感情を隠しきれないアホなのか。
「確かに…言われてみればそうだな。」やはりアニメ好きで、俺と誠一といつも一緒にいる高野修斗まで、俺のことを変な目で見てくる。
(な、なんて言えばいいんだよ…タイムスリップしたなんて言っても信じてくれねえだろうしな…)
どうしたらいいんだ、俺は迷った。
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