康輝が真っ先に行ったのは、1階の様子を伺うことだ。過去の自分を含めた家族が寝静まっているのを確認し、靴入れ棚から使われていない靴(父親の靴)を取り出し、2階に持っていった。
2階の物置には長い間使われていない服が多くあり、ワイシャツとフード付きジャンパー、スラックスを拝借し、パジャマの上から着た。
夜明け前の冷たい空気を切り裂くように、2階の窓から飛び降りた。目的はただ一つ。全ての発端となった、あのスポーツアニメから、山本大甫を排除することだ。
始発電車に乗り込み、イヤホンから流れる「世界が終わるまでは…」を聴きながら、康輝は決意を新たにした。
東京の街に降り立った康輝は、スポーツアニメAの制作会社が入るビルへと向かった。
ビルに到着した康輝は、受付で制作スタッフとの面会を求め、幸運にもキャスティング担当の中本賢と会うことができた。
「あの、僕あのアニメのファンなんです。どうしてもお伝えしたいことがあるんですが、良いですか?」
康輝は、用意してきた資料を中本に手渡した。そこには、二階敏明役に推薦する声優、梶原嵩夫の情報がまとめられていた。
「この梶原嵩夫さんなら、二階敏明役を魅力的に演じてくれると思います。ぜひ、お願いします!」
康輝はこの道中で、山本に声が似た声優をスマホでざっと調べ上げ、列車内で熟考した結果、梶原にたどり着いたのだ。
中本は、康輝の熱意に押され、資料を受け取った。
「参考にさせていただきます。しかし、キャスティングはまだ始まったばかりですので…」
中本の言葉に、康輝はわずかな希望を感じた。
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