9.窮地
藤さんの車で1時間弱走らせて着いた神社は大きな鳥居と荘厳な社を構えていた。
界隈では有名な神社らしい。
優しそうな初老の神主さんは僕を見るなり、顔つきを変えた。
「何をしたらそんな厄災を背負う事になるのか!?」
そういうと神主さんは、僕の話を聞くともお祓いも拒否した。
藤さんが頑張ってお願いをしてくれたが、神主さんは払う事は無理だと頑なに言い張った。
しかし、代わりに別の神社を紹介してくれた。
「ごめんね。」
神社を後にする時に藤さんは僕に謝った。
「え、違うよ。謝らないで。悪いのは僕だから、、。僕の方こそこんな事に巻き込んでごめん。」
藤さんは少し顔色が悪く感じた。
紹介された神社をナビでセットするとここから2時間かかる山奥である事が分かった。
藤さんは躊躇うことも無く、紹介された神社に向かってくれた。
僕は本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「さっきさ、、神主さんが厄災って言ってたでしょ?」
不安そうな顔の藤さんは緊張気味に言った。
「もしかしたら、悪霊とかの類いじゃないのかも、、、。」
「それって、、、」
僕は考えを巡らせようと思ったが背筋が凍った。
何が僕に取り憑いてるのかは分からないけど、想像よりも恐ろしい物がついているのかもしれない。
時刻は20時を周り、外は真っ暗闇だ。
ようやく着いた神社の駐車場には既に神社の人が数人立っていた。
どうやら、先程の神社の神主さんが連絡を事前にしてくれていたようだ。
待ってくれていた人達に案内をされる。
だいぶ歴史のある神社のようだが、先程の神社の様な神々しい感じはしない。
本堂と言う所に通されると、神主とおぼしき人が座って待っていた。
正面に座るように促されて僕は座った。
案内してくれた人達は、何やら色々準備をしている。
ご高齢の雰囲気の神主さんは仏頂面を崩さずに、僕の説明を聞いてくれた。
一通り話し終えたあと、やはり仏頂面を崩さずに神主さんは口を開いた。
「お付の方が賢いですね。お寺では無く、神社に来たのが正解でした。これはそこら辺の霊とは違う。神とか妖怪の類いの様だ。」
藤さんを見ると、藤さんは何も言わずに真顔で神主さんを見つめていた。
「しかし、理解できない。何故こんなにも物騒な物に取り憑かれたのか?
原因が分からない状態でのお祓いは相当厳しいのです。事態を悪化させる可能性もあります。」
「さらに不運なのは、今がもう漆黒も深い夜ということ。お連れの方にも見えているでしょう?彼の背中に恐ろしい姿で憎しみの目で恨めしく笑う女の姿が。」
僕は驚いた。体調は悪くないし自分では何も感じない。だが、神主さんには見えているらしい。
そして藤さんにも。。。
「はい、、その前に行った神社の時から、、。
でも、姿は見てません。見たら私まで何かよからぬ事をしそうな気がして、、。直視できないです。」
だから、藤さんは顔色が優れなかったのか。
長距離の移動でも、夜遅くなっていても、僕をここまで連れてきてくれたのは、そういう事なのだ。
「やはり、賢明な方ですね。目を合わせれば貴女も殺されていたでしょう。」
藤さんは緊張気味に言った。
「多分、私たちがお祓いをしようと考えて行動したことで、取り憑いてる物の怒りを買ってしまったんじゃないかと思います。」
神主さんは顔色ひとつ変えずに仏頂面で頷いた。
「でしょうね。話を聞く限り、だいぶ時間をかけて彼の生力をそいで来た。呪い殺す日を待ちわびていた所に邪魔をされたとなれば。。。」
僕は神主さんの話に不安になってきた。それに伴って背中が重苦しくピリピリと痛む様な気がしてきた。
気のせいなのか、それともあの女の仕業なのか、それは分からなかった。
「ハッキリ言って理由が分からない限り、私にも祓う事は無理に近いです。」
神主さんは無機質に答えた。
僕はその言葉に絶望した。地面がないようなふわふわとした感覚が襲う。
「あの、、もし原因が分かったら祓えますか?」
藤さんが神主さんに聞いた。
神主さん、初めて表情を作り、目元をピクつかせて藤さんの方を向いた。
「なんとも言えませんけど、原因が分かれば祓える可能性は高くなります。それしか言えませんね。」
藤さんは、深くため息をついて「分かりました。」と一言だけ言った。
そして、僕の方を見ずに僕に対して問いかけた。
「佐藤くん、一つだけ原因がわかる方法があるの。それなりにリスクはあるけど、、どうする?」
僕は驚いた。そんな方法あるの?
是非、原因が知りたい。
確かに藤さんは不思議な人だ。電話をしてから今の今まで物凄い頼りになり、支えになってくれている。本当に感謝してるし、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。だから、
「リスクって、、それは僕の?藤さんの?」
聞かずには居られなかった。
リスクが僕にあるのなら、どうせ死ぬかもしれない状況だから喜んでYESと答える。
でも、もしリスクが藤さんにあるのなら、、、。
僕の質問の意図に気づいたであろう藤さんは笑顔を作って答えた。
「こんな状況なのに優しいね。
両方にあるけど、どちらかと言うと私にリスクがある。」
「それなら、僕は辞めとくよ」
藤さんは首を横に振った。
「私のことは心配しないで。というか、この際だからハッキリ言うけど、佐藤くんが殺されたら次のターゲットは私だと思う。そんな気がしてるの。」
藤さんは僕の方を振り向いた。
思わず驚いた顔をしてしまった。
(ダメだよ!こっちを見たら良くないんじゃないの!?)
心の中で思った。それを言う前に藤さんが口を開いた。
「ここまで来たら最後まで付き合うから、あとは佐藤くんが決意して」
藤さんのその言葉に、まっすぐ見つめる瞳に僕は内心はまだ決意出来ていなかったのに、自然と頷いていた。
藤さんはニコリと笑い、顔を寄せ、静かに唇を重ねてきた。
驚く間もなく、不思議な感覚が襲った。
忘れていた大学生の頃の鮮明に過去が蘇る。走馬灯のようだ。
藤さんが唇を離す、その瞬間、どっと冷や汗をかいた。
藤さんは唇を離したあと、ゲホゲホと咳をしながら嗚咽していた。
僕が藤さんに大丈夫かと声をかけようとするのを、藤さんは手を出して止めた。
「ゴホッ、、ゴホッ...、、ハァハァ。だ、大丈夫。」
神主さんは目を見開いて一連の流れを見ていた。
藤さんが落ち着いた頃に、漸く話し始めた。
「今、、キスをして、、女の感情とその起因となった佐藤くんの過去が、、、見えました。今からそれを、、話し、、、、ます。」
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