7.藤さんの話
藤さんと電話している時は必死だったから気にしていなかったが、自分の部屋を待ち合わせ場所にした事を失敗したと思った。
僕の部屋はだいぶ散らかっていたし、ここ数週間は掃除もしていなかった。
ギリギリ床は見えるが、このまま行けば床の見えないゴミ屋敷になってしまう。
藤さんに叩かれて、身体が楽になったせいなのか、僕はいつもよりも正気になった気がした。
だから、何故ここまで散らかしていたのか?とても恥ずかしく思った。
藤さんは気にする素振りもせずに、唯一綺麗なベッドに腰掛けた。
僕は床に座る。
「佐藤くん、久しぶりだね。」
藤さんはにこやかに笑う。
藤さんは小柄だけど肉付きは良いように見えた。
長袖の紺のカーディガンの裾から見える手首は色白だが、健康的に見えた。
長めの前髪をピンで斜めにながし、その他の髪の毛は邪魔にならないように後ろで結っている。
髪は多分肩ほどの長さだろうか?
「さっきはビンタしてごめんね。でも、いくらか身体が軽くなったでしょ?」
藤さんはわざとらしく、拝むような仕草で申し訳なさそうに笑う。
僕は頷いて言った。
「うん。ありがとう。最初はビックリしたけど、その、、なんて言うのかな?正気に戻った感じがする。」
「あ、藤さん、、なんで電話してきたのが僕だって分かったの?田中くんから聞いたわけじゃないの?」
僕は藤さんに色々聞きたい事があった。
「あー、、じゃあ、まず私から説明しようか。」
藤さんは真剣な顔になる。
「まず、家の電話が鳴った時は佐藤くんだって分からなかった。ただ、直感だけど取っちゃ行けない電話だと思ったの。」
藤さんが言うには、怨念とか憎しみなどの負のオーラがある相手からの来た電話を辿ってこっちにも負の影響が来るらしい。
そして、僕からの電話が鳴った瞬間から絶対にとってはいけないと思えるくらい、負のオーラを感じたそうだ。
負のオーラを抱えている側に、こちら側、つまり藤さんからかける分には影響は無いので、電話のコールが鳴りやむまで待ち、藤さんから折り返しの電話をしたのだそう。
「で、佐藤くんが電話に出た時に、何となく佐藤くんの顔が思い浮かんだの。」
「そっか、それで佐藤くん?て疑問形な言い方してたんだね。」
「うん。でもね、電話口からは佐藤くんの声よりもノイズの方がすごくて、、、」
ノイズ?
僕は電話してる時気づかなかった。体調が優れなかったからそこまで気にしてなかったのかもしれない。
「ノイズ凄いのって結構ヤバい感じなのね。だから、早く会わないと手遅れになるって思ったの。」
藤さんはノイズと表現したが、一般的には霊障の類のようで、それが関係ない他人にも五感で体感出来るレベルはかなり危ないらしい。
「で、いざ佐藤くんを見たら、正確な姿は分からないけど、佐藤くんの身体にまとわりつく様に黒いモヤが絡まってたの。佐藤くんの顔つきも今と全然違った。だから、とりあえず応急処置でビンタしたの。」
応急処置がビンタな理由はよく分からなかったけど、たしかにビンタのおかげで体も心も楽にはなった。
ここまでの話を普段なら信じないだろう。しかし、今の僕は藤さんの説明を全て鵜呑みにするくらい信じた。
僕は藤さんにお礼を言った。
本当に死ぬかもしれないという恐怖、そして夢の中の出来事が苦しくてしょうがなかった。
でも、為す術がなくわらにも掴む思いだったから。
子供の頃は藤さんの事をバカにしていたし、直接バカにしていた訳では無いけど藤さん本人もそれは感じていたはずだ。
それでも、心配して助けてくれた事には反省と感謝しかない。
「じゃあ、、佐藤くんの話聞かせてもらっていい?包み隠さずね?」
見透かされてる気がしてドキッとした。
夢の中のレイプの話は自分自身恥ずかしく、藤さんに嫌悪感を抱かれるのではないか?
そして、昨日見たいつもと違う女を犯した夢への罪悪感もあり、本当に犯していたら犯罪者として見られてしまうのではないか?
この期に及んでそんな事を考えてしまっていた。
僕は意を決して、全て赤裸々に説明を始めた。
※元投稿はこちら >>