美晴は死ぬことが出来なかった。
逮捕され裁判にかけられた。
両親が優秀な女性弁護士をつけてくれたが、美晴は生きる気力もなく、ただ過ぎていく時に身を任せていた。
自分は最愛の人を裏切った生きる価値もない女、、、そして人殺し、、、化粧もしないし、髪の手入れもしない、、、判決などどうでもいい、、、
一生懸命にやってくれている弁護士にも心を開くことは無かった。
今日も裁判の前に女性弁護士と接見をしていた。
「今日は海原さんがくるの、、、証言台に立つわ、、、」
えっ、、、凪が、、、
凪に逢えるの、、、
頭の中がいっぱいになった。
話が頭に入らない、、、
凪のことしか考えられない、、、
接見を終え、ボォとしていると女性刑務官が来て挨拶をし、美晴を促した。
美晴は刑務官に声をかけた。
「化粧とか、、、ダメですよね、、、」
凪の前では少しでもキレイでいたい、、、
刑務官は驚きを隠せなかった。
自分の運命を諦めきって何もかも受け入れるつもりなのか、ほとんど口を開かない美晴がそんなことを言うなんて、、、
きっと誰よりも大切な人が来ているんだ、、、
出来ることはしてあげたい、、、
いつも携帯している櫛を取り出した。
「急いで、、、時間が無いから、、、」
「すいません、、、」
当然、刑務官は美晴の身の上を知っている。
こんなにキレイな人なのに化粧もせず喪失感にずっと苛まれていることも、、、
「わたし今、リップしか持ってないの、、、これしか出来ないけどガマンして、、、」
「そんな、、、本当にありがとうございます、、、」
刑務官が差し出すコンパクトを見ながらリップをひいていく、、、
なんてわたし、酷い顔をしているの、、、
こんなの凪に見せられない、、、
髪をとかしてなんとか格好をつける。
これしか出来ない自分、、、
でも随分とましになった、、、
もう一度刑務官にお礼を言った。
凪がすぐそばにいる、、、
痩せたみたい、、、顔色も良くない、、、
わたしを見ることもなく、虚ろな目をしてる、、、
あんなにいつも優しく、わたしを見つめていてくれたのに、、、
全部わたしのせい、、、
ふと傍聴席に見覚えのある顔を見つけた。
凪と再会したときに一緒にいた女性、、、
確かミユとかいう凄くキレイな人、、、
そうか、、、今凪を支えているのはこの人なのか、、、
細くて胸の凄く大きなオンナ、、、
わたしが傷つけた凪をそのカラダで癒してるに違いない、、、
やはり嫉妬で胸を焦がされる。
ミユと視線が合う、、、
蔑むような目つき、、、
最低の浮気オンナで人殺し、、、
そう言われているような気がした、、、
でも構わない。
美晴は凪をひたすら見つめていた、、、
もう二度と逢えないかも知れない、、、
質問されている内容など頭に入ってこないけど、、、
「証人は被告人を愛していましたか?」
弁護人が凪に尋ねた。
しばらくの沈黙のあと、、、
「はい、、、」
そんなの分かってる、、、凪はイッパイわたしを愛してくれた、、、
美晴の胸が温かくなる、、、
けれど、、、
「今はどうですか?」
その質問に凪は応えることなく、項垂れたまま弱々しく首を横に振った。
そうだよね、、、当たり前だよね、、、
「被告人は証人を愛していたと思いますか?」
今でも愛してる、、、
「、、、分かり、、、ません、、、自分には、、、」
その言葉に美晴は思わず立ち上がり声をあげていた。
「違うよ凪くん、わたしはあなたを愛してた、、、凪くんだけを愛してた、、、」
刑務官に体を抑えられる。
裁判長に注意を受けても美晴はやめなかった。
「イヤだよ凪くん、、他はどうでもいい、それだけはイヤだ、信じてお願い、、、わたし凪くんに酷いことした、本当にごめんなさい、、、死刑になったっていい、、、でもそれだけはイヤだ、、、わたしは凪くんだけを愛してたんだよ、、、」
凪は何も応えてくれなかった。
でも初めて美晴を見つめて、その瞳は涙で濡れていた、、、
胸が痛い、、、
最低の自分、、、
愛する人を苦しめるオンナ、、、
「そんなのイヤだ、、、ごめんなさい、でも本当にわたしはずっと凪くんだけを、、、」
泣き叫ぶ美晴は退廷させられた。
つづく
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