数日後、道夫は藤森家を訪れた。
優香が理奈の部屋へと案内する。
ノックをするが返事がない。
優香が道夫さんよ、伝えると「まって」と返事があり、五分ほどしてからドアが開いた。
薄化粧をしている娘を見て、優香は安心した。
大丈夫よ、道夫さん頑張って、心でそうつぶやくと、二人を残してその場を離れた。
理奈は確かにやつれていたが、やっぱり美しかった。
部屋をゆっくりと見渡す。
ベッドの枕元にあの時の下着がきれいに畳まれ、置かれていた。
じっと見つめている道夫に気づいた理奈は、ベッドに腰を下ろし、小さな声でわたしの宝物とつぶやいた。
ほっそりとした体に子供を宿したお腹がふっくらと膨らんでいる。
「理奈、頑張ったね。」
理奈は何も言わない。
「無理やり、マリンちゃんから全部、聞きだした、、、ごめん、、、」
道夫はやっぱり優しい、甘えちゃダメ、自分に言い聞かせる。
「理奈は前から頑張り屋さんだったね。」
「これからも一人で頑張る、、、」
理奈は感情を押し殺した声で言った。
道夫は理奈の隣に腰を下ろした。
「俺、別れたんだ。」
「えっ、、、」
「俺、大好きな人が出来たんだ。」
理奈は道夫を見つめ、凍りついた表情をしたが、次の瞬間、
「いやだ!絶対にいやだ!」
抑えていた感情が爆発したように叫び、道夫の胸をポカポカ殴り始めた。
少女のように泣きながら、ヒックヒックとしゃくり上げながら、
「誰なの?誰のことを好きになったの?」道夫に訴える。
道夫は優しく理奈の髪を撫でながら言った。
「理奈っていう、すごく可愛い子なんだ、、」
理奈は驚き道夫を見つめる。
「わたし、道夫を裏切ったんだよ、、、わたし汚れている、、、」
「理奈のこと汚れているなんて言える人間はこの世の中にいないさ、俺だって理奈さえ幸せになってくれたらなんて格好いいこと言って、、、つらかった、理奈が結婚すると聞いたとき、胸がつぶれるぐらい苦しかった。理奈が俺以外の男と幸せになるなんて、絶対に許せなかった。俺はそんな男なんだ。」
「ううん、わたしもそうだよ。道夫が他の人と幸せになるなんて、やっぱりいや、、、」
理奈は道夫の胸に頭を寄せた。
道夫は優しく理奈の胸を手のひらで包み込んだ。
ずっしりとした量感が懐かしい。
「理奈にずっと触れたかった、、」
「ああ、わたしも、、道夫の手の感触、、忘れることが出来なかった。」
「俺、理奈も生まれて来る子供も、大切にする、、約束する。」
理奈は涙を流しながら頷いていた。
「理奈、また、下着を買いに行こうか?二人一緒に?」
「うん!、、、道夫、大好き!」
二人は見つめ合い、唇が重なった。
二人は結婚した。
つづく
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