「どうしたの?」と私が聞くと
「今日傘持ってこなかったので…」と困った顔。
「そっか。じゃあ車で送って行くよ」と私が言うと
「え…いいんですかぁ?」と笑顔になった。
会社の玄関から駐車場まで二人で走り、急いで車に乗り込む。
エンジンをかけ、息を整えていると…
「凄い雨ですね…」そう言いながらカオルは水滴が付いたメガネを拭き、ケースにしまった。
「メガネは会社内だけなんだ?」と私が聞くと…
「そんな事ないですよ?部長がメガネが無い方が良いって言ってたので…」とこちらを見てニコっと笑った。
少し濡れた髪と、透ける様な白い肌。
人形の様に整った綺麗な顔が目の前に…。
薄れゆく理性…。
薄れゆく理…。
薄れゆく…。
薄れゆ…。
「これ奥様のですか?」
戻ってきた理性。
「え?」
車のコンソールに置かれたピアスを指さすカオル。
「あぁ、これは彼女の。俺バツイチで奥さんはいないよ」
「そうなんですか。失礼しました。」と笑う。
カオルはピアスを見つめ「部長、素敵だから…きっと浮気されない様に置いてるんですね…」
そう呟き「で、何人と浮気したんですか?」と、目を細め私を見た。
「それセクハラですよ」
と返し、二人で笑いながら車を出した。
運転中、カオルの膝の上に置かれた鞄からチラリと見えるメガネケースに目がとまった。
「ところで、メガネは何の戒めなの?」
ずっと気になっていたので聞いてみた。
「聞きたいですか?」
「うん…」
「話したら私の家までじゃ足りないですよ?」と笑うカオル。
「じゃあ遠回りする」と笑うと…
「…ドライブ?」と私を見る。
「ドライブする?」と聞き返すと…
「する」と可愛い笑顔になった。
進路を変え私の好きな場所へと向かった。
「私… 」
カオルが遠くと見つめながら口を開いた。
つづく
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