一週間後。
私は企画会議に呼ばれ出勤した。
会議を終え自分のオフィスに立ち寄り、少し仕事をする事に。
誰も居ない静かな空間。
時折カオルの席を眺め、そこには無い後ろ姿を想い出していた。
会議で決定した内容をまとめ、部署内のメールで全員に送信すると、私はパソコンを閉じ会社を後にした。
帰り道、馴染みの煙草屋へ向かう途中、赤信号で車を停めた。
ここ…この前カオルが車を降りた場所だ…と辺りを見回す。
カオルの家はお金持ちなのか?…と気になった私は、自分には縁遠い高級マンションが立ち並ぶエリアを一回りしてみることに。
あまりの暑さに喉が渇き、カフェを見つけた私は店の前に車を停め、アイスコーヒーをテイクアウト。
車に戻り、コーヒーに口を付けると、前方のマンション前に一台の高級車が停まった。
助手席のドアが開き、深いスリットから綺麗な脚を出しながら降りてくる女性。
黒髪にピンクのインナーカラーが入った程よい長さの巻き髪、ボディーラインが際立つタイトな黒のロングワンピース。
いいねぇ…と舐めるように見ていると、女性は歩道に入って前屈みになり、お尻のラインを際立たせながら運転席に乗っている相手に何か笑いながら話している。
髪の毛で目元が隠れ、笑う口元だけが見えセクシーさが増す。
しばらくそのお尻を堪能していると、女性は手を振り車を見送った。
ガッパリと後ろが開いたワンピースから見える綺麗な背中。
後ろ姿もいいねぇ…と思っていると、女性はマスクをしながら一瞬こちらに振り向いた。
えっ!?…
女性はそのままマンションのエントランスに入って行った。
今の…もしかして…カオル?…
私は車を出し、マンション前まで移動したが、女性の姿はもうそこには無かった。
私はモヤモヤしたまま、煙草屋で買い物を済ませ自宅へ戻った。
部屋でパソコンを開くと部署内のリモート会議の知らせが入っていた。
明日10時か…
そういえばカオルの髪の毛、インナーカラーなんて入ってなかったよな…
明日のリモート会議で確かめてみよう…
そう思い、私はパソコンを閉じた。
翌日9時50分。
「おはようございます」とモニター上にメンバーが次々と映し出されてくる。
すると「おはようございます…」とカオルの声。
私がモニターを見ると、髪の毛を後ろで一つに縛り、眼鏡を掛けて澄ましたカオルの姿。
後ろの髪の毛が見えないじゃん…と大きくなるモヤモヤ。
横向かないかな…そう思いながらも、会議が始まっても動かないカオル。
モヤモヤの限界が来た私は職場のグループラインからカオルのアイコンを開き、ラインを送った。
「会議中ごめんね。髪の毛の色変えた?」そう送ると、モニターに映るカオルが動いた。
しばらく下を向くカオル。
すると「部長からのライン初めてですね。嬉しいです。髪の色は変えてませんよ?」と。
やっぱり人違いだったんだ…と少しホットしていると…
「インナーカラーだけ入れましたけど。…見えちゃってます?」と続いた。
「ピンク?」と送ると「ピンク」と返信。
昨日の女性…カオルだったんだ…と複雑な気持ちになる私に…
「会議中に内緒でラインってドキドキしちゃいますね…」と楽しそうなカオル。
モニターを見ても全然楽しそうに見えないが、少し顔を左右に振りまた視線を下ろし…
「髪の毛見えてないですよね?何で分かったんですか?」と。
「後でね」と返し私は会議を進めた。
会議が終わりベランダに出て煙草に火を付けるとラインが届いた。
「電話してもいいですか?」とカオル。
私がカオルに電話を掛けると「何でわかったんですかー?」と喋り始めた。
「昨日たまたま篠崎さんのマンションの近くでコーヒー買ったら、車から降りてくるのを見かけたから…」と答えると…
「ストーカーしてくれたんですかぁ?」と笑うカオル。
誰の車から降りたのかが凄く気になるが、そこまで聞けずにいる私。
「じゃぁもう教えなくても私の家に来れますねぇ?」と楽しそうに言うカオルに「ご家族が居るのに行けないよ」と言うと…
「ん?…私、一人暮らしですよ?」と。
あんなバカデカいマンションに一人暮らし!?…
やはりあの車の運転席の人間はカオルのパトロンか何かなのか?…そんな事を考えながら私は煙草の火を消した。
「部長…お家に来ませんか?…」と囁く。
「え…?」と驚く私に「部長に会いたい…」と。
頭の中を色んな事が駆け巡り、胸が締め付けられながらも何かが沸き上がる…複雑な心境に。
「ダメですか?」と言う可愛い声に「じゃぁちょっとだけ…」と私の口が勝手に動いた。
私は車を走らせカオルのマンションへ向かった。
マンションの地下駐車場に車を停め、エレベーターホールの入り口でカオルの部屋番号を押す。
しばらくするとドアが開きエレベーターへ。
最上階に着くと、オフショルダーの白いワンピースに身を包んだカオルが部屋のドアを開けて待っていた。
「早かったですねぇ」と笑顔のカオル。
今日もトレゾァの香りが仄かに漂っていた。
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