アパートで暮らすかほお姉さんには唯一、不便で不満なものがあった。それは部屋にシャワーだけで浴槽がないことだった。
僕は母さんと大家さんが知り合いであることをいいことにアパートのすべての部屋を見ることができた。
部屋の構造はどれも同じでドアを開ければ台所、シンク、洗濯機、冷蔵庫、トイレ、狭いシャワー、奥に行けば床が畳となっている和室になり、小さい薄型テレビ、タンス、小さい柵がある窓、タンスとその窓の後ろには押し入れがあり、寝るための布団の取り出しに使われる。食事の際は小さいちゃぶ台が使われ、不用の際は脚をたたんで畳に置くか、壁に立てかけられていた。
また押し入れの中板の上にはさきほど言った布団があるが、その下には全身を映す鏡の姿見が収納されていた。
アパートのすべてを探検した僕から見て住居というより、いろんな訳ありの人達の一時的な別荘という印象が強かった。
1年ほど長く住んだ人はおらず、今現在は大家さんとかほ姉さんの2人がいるくらいだ。
とくにシャワーは広いと言えばやや広いが、狭いと言えば狭い。もし浴槽に浸かりたければ近くにある銭湯を使うしかない。
かほ姉さんは大人の考えで妥協しながら、そこで生活していた。
かほ姉さんと最初にあった頃のことは今でも覚えている。5月の終わりごろに彼女はこのアパートを訪れてきた。
初対面の際は大家さん、母さん、僕で一緒に挨拶をしたが、その時見せた笑顔は初めて見る素敵なお姉さんの笑顔だった。
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