徹と加奈子の2人には以前のような平和な日々が戻っていた。
性愛教事件の後、鎌倉の自宅に戻った夜から毎晩の欠かさず性交に耽った。
性愛教では、徹と加奈子は互いに別の男や女と性交で悦び悶えた。
それは無理のないことだった。
結婚制度は人間が集団としての社会生活を潤滑に円満に営めるように調整された制度だ。
確かにその効用は大きい。
夫が仕事に行っている間に妻が別の男の射精を受け、自分の子供が殺された上に妻が他の男の子供を妊娠しているようでは、夫は安心できない。
それは妻の側から見ても同様だ。
妻が子供の世話をしている最中に夫が他の女を孕ませてその女と暮らすようになれば、妻は安心して子供を産み育てられない。
が、自然界即ち本能では男女共に複数の異性を求める傾向がある。
常に特定の異性と性交を営むと次第に情欲は減退する。
次々の自分の好みの異性を新たに見出して性交する方が情欲は昂ぶる。
種々の環境に適応する種を後世に残す為には様々な異性との生殖行為に励む方が理に適っているからだ。
徹と加奈子は性愛教で他の異性と性交することで、そのことを身をもって体験した。
徹は以前と同様、普段は読書や映画鑑賞を楽しみ、時々は地方への講演旅行に赴いた。
加奈子も以前と比較して執筆ペースをかなり緩めた。
書きたいことはほぼ書き尽くしていた。
徹も加奈子も、「性愛教」事件をヒントに、執筆活動に代わる活動領域を考え始めていた。
が、それを実行するのはまだまだ先のことだ。
それまでは、講演したいときに講演し、書きたいときに書く。
既にひと財産を稼いでいる徹と加奈子は、齷齪と働く必要はなかった。
来年度、純は開威中か麻存中を受験することを決めていた。
鎌倉からだと通えない。
徹と加奈子は鎌倉の自宅を売却して都内に転居することを考えた。
純は成績は優秀であった。
が、茜のような天才的な能力ではなかった。
四茶大塚やSARIXや目能研などの予備校や塾に通わせる方が受験への近道だと考えた。
が、純は転校をしぶった。
理由は簡単だ。
麻優美と会えなくなるからだった。
麻優美と性交できなくなるからだった。
純はその理由を徹と加奈子に隠さず明かした。
純は肉体的精神的両面で麻優美に強く依存していた。
受験を乗り越えるのに不可欠な存在に思えた。
徹と加奈子は純の意向を無視する気はなかった。
無理やり転居して純が精神的に不安定になるのでは意味がない。
徹と加奈子は純の意向をもう少し見守ることにした。
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