迷路のように不規則に折れ曲がる廊下を闇雲に走った。
物音のしない223号室のドアを開けて入り込んだ。
2人の呼吸は荒くなっていた。
無論ここは安全ではない。
ドアはオートロックだが暗証番号操作が可能な信者ならばこの部屋のドアを簡単に開けられる。
徹は警察に連絡をとった。
身の危険に晒されている、教団施設の223号室にいる旨を伝えた。
ウラマーが話していた通り、やはり弥智代は徹の監視役を与えられていた。
徹が部屋を脱出したのを見て、その後の徹の行動も監視していたに違いない。
徹が食堂から廊下に戻った時に人の気配を感じたのは弥智代が廊下に出ていたためだろう。
徹に見つかって慌てて307号室に戻り、寝たふりをしていたのだ。
その後、321号室でウラマーの一人を撃退したのを確認した上で、「反逆者」の烙印のもと、拷問に掛けるために捕まえに来たということなのだろう。
徹と奈美子は部屋の狭いクローゼットの中に身を潜めた。
暫くすると223号室のドアが開く音が聞こえた。
部屋の照明がつく。
扉の僅かな隙間からクローゼットの中にも光が洩れ差し込んだ。
「いるか?」男の声が聞こえる。
浴室のドアを開ける音が聞こえた。
「いない」別の男の声が聞こえる。
「クローゼットを開けてみろ」最初の男の声だった。
徹と奈美子の鼓動は頂点に達していた。
その直後、クローゼットの扉が全開にされた。
眩しい光に徹と奈美子の目が眩む。
次の瞬間、徹は包丁を手に飛び出して身構えた。
目の前に3人の男がいた。
一人は青バスローブのウラマー、他の2人は紫帯バスローブだった。
徹は青バスローブのウラマーに切り掛かろうとした。
すると、紫帯の一人が何か手に持っているのが見えた。
それを徹の方へ突き出した。
プシュッという音をさせてそれを徹に噴射した。
徹はその場に崩れ落ちた。
催涙スプレーだった。
ストレートタイプの噴射だ。
ピンポイントで顔を狙われればひとたまりもない。
3メートル圏内ならば確実に命中する。
直後に奈美子の悲鳴が聞こえた。
奈美子にもスプレーが噴射されていた。
徹と奈美子は悶絶した。
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