茜は小学校へ入学した。
が、学校が楽しくないと言って休むことが多かった。
授業は簡単すぎて退屈、同級生とは精神年齢が違いすぎて話が合わない。
それは当然だった。
茜は既に大学入試レベルの問題を解くだけの学力をもっていた。
心理学者または医学者を目指す関係上、特に理数系が得意だった。
今さら足し算引き算でもあるまい。
加奈子の影響で英語も得意だった。
徹も加奈子も茜の意向を理解し、茜の気が向いた時のみ登校させた。
茜は純の面倒を見たり勉強や読書をしたりして家で過ごした。
茜の読書範囲は徹や加奈子の書く官能小説だけでなく、書斎にある加奈子の蔵書全般、特に古今東西の性愛文学全般にまで及んだ。
加奈子の蔵書に「インド三大性典」があった。
世界最古の性愛論といわれる古代インドの『カーマ・シャーストラ』。
性戯マニュアル『アナンガ・ランガ』。
女の性的志向を分類した『ラティラスヤ』。
『カーマ・シャーストラ』の一つ「カーマ・スートラ」。
ここには、性交の方法が記されている。
キス、前戯、絶頂、体位、口腔性交、SM、3P、性感を得るための男根ピストン方法など。
これを含めた「世界三大性典」の他の2書もあった。
中国の『素女狂』。
アラビアの『匂える園』。
これらも加奈子の愛読書だった。
茜もこれらを読んでいた。
読み終わると加奈子と感想を言い合った。
イギリスの『わが生涯の秘密』。
著者の幼少時から老年に至るまでの1200人以上もの女との性交の詳細な記録。
全11巻に渡る膨大な著書だ。
オーストリアの『ペピの体験』。
これはある少女の5歳から13歳までの回想だった。
友達の家でその兄弟姉妹と「パパママごっこ」と称した性戯や性交で快楽に溺れる話から始まる。
運命に翻弄されつつ娼婦になる過程が描かれる話だ。
フランスの『若きドン・ファンの冒険』。
これは別荘に遊びに来た主人公がメイドに躰を洗ってもらう途中で性に目覚める話。
別荘の女主人と性交したのをはじめ、実母や2人の実姉や叔母や複数のメイド達と性交して次々に妊娠させる。
加奈子と茜は性愛文学の話題で花を咲かせることが多かった。
茜は異常なくらい早熟な娘だった。
性愛は人間の生殖すなわち人類の子孫繁栄に繋がる。
古来から現代に至るまで全ての人間は性愛から逃れられないのだ。
「ママはいくつのときに初めてオナニーしたの?」
茜が尋ねる。
「ママはねぇ、パパとセックスするようになってからかな」
加奈子が答えた。
「女の人の躰って気持ちよくなるように作られているんだね、ママの本にも書いてあったでしょ」
茜はそう言って加奈子の執筆した評論集『女体の匂える園』を持ってきて開いてみせた。
加奈子の著書は小説のみではなかった。
女の肉体、特に女性器に関する著書もあった。
それらは世の男達を虜にして飛ぶように売れていた。
この標題は無論アラビアの性愛文学『匂える園』からの借用だった。
評論の内容の要旨は次のようなものだった。
女性器は、男目線では……、
崇拝すべき部位、
欲情して求める部位、
性的欲望を満たす部位、
快楽を得る部位、だ。
が、女目線では……、
排尿する部位、
隠すべき恥ずべき部位、
流血する部位、
赤ん坊を産み出す部位、となる。
もちろん「快楽を得る部位」には違いない。
女性器は、西洋では「災禍と地獄の門」「男を堕落させる元凶」と見なされた。
インドや中国では「生命誕生の門」として愛され崇拝される対象と見なされる。
『アナンガ・ランガ』を記した女性は、男根に快楽を与えるために膣の筋肉を鍛える技術を紹介している。
膣で男根を握り締めたり締めつけたりする技術だ。
現代でもタントラヨガの信者はこれを実践する。
女が求めるのは、常に勃起し、怒張し、屹立し、力が漲っており、逞しく頼もしく固くて太い男根。
常にビンビンに聳え立ち、カチンカチンに硬直した男根だ。
膣に挿入後は射精までゆっくり時間をかけて深く浅くの往復運動を繰り返し、徐々にその速度を上げていく。
射精して身震いした後は再び素早く蘇る男根。
このような男根が女に好まれ愛される。
女が男を愛するのはこのためだけだ。
……加奈子の評論はこのような内容だった。
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