「・・何んにも無ぇな・・。」
「・・無いっすねぇ・・。」
虚ろな会話。
これで何度目だ?
疲れた。
お腹が空いた。
もう歩きたくない。
シャワー浴びたい。
暗い夜道、不機嫌の塊になった私達は極端に口数が減り定期的に同じセリフを繰り返す。
と、その時だった。
不意に視野の端っこに映った何か。
『空室アリ』
ごく普通のマンションにしか見えない。
だが、ささやかに表示されたサイネージを見る限り、これはホテル、いわゆるラブホだ。
私達は喰い入るようにサイネージに見入っていた。
空室の残りは僅か一室。
簡単な食事も出来そうだ。
「「・・ここしかない・・。」」
二人は同時に呟き、互いの顔を見合わせる。
砂漠の真ん中で乾き死にする寸前、オアシスを見つけたのだから嫌も応も無かった。
「・・いいよな?」
「・・いいですよね?」
独身の男女がラブホに入るということは、という意味、、或いは可能性、、も含めての双方による意思確認は、ほぼ同時に合意に至る。
・・と、とにかく・・・
座りたいし、何か喰いたいし・・・。
即物的な判断に促されていたのは否めない。
私達は先刻までの不機嫌が嘘のように足取りも軽くホテルのエントランスに向かっていた。
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