そんで、だ。
私は毎年、冬になると大量の蜜柑を消費することになる。
ひと抱えのダンボール箱に詰まって彼宛に送られてくる蜜柑は御当地名物だそうな。
「下の方、傷んじゃうんだよな。」
そう言って幾つかのカゴに蜜柑を盛った彼は、食卓は勿論、あの部屋、この部屋に蜜柑を分散して配置する。
・・・寝室にもですぜ・・・。
流石に御当地名物とあって蜜柑は美味い。
ビタミンC、、だっけ?
果糖の摂り過ぎにさえ気を付ければ身体にも良いらしい。
お陰様で、、、かどうかは知らないが、ここ数年に渡り私は風邪知らずだ。
「実は俺、あんまり好きじゃない・・。」
何ですと?
ずっと言い出せなかったらしい。
如何にも彼らしい話だ。
いいよ、いいよ・・。
・・アタシが食うよ・・。
そして、あたかも修行のように私は一冬かけて大量の蜜柑を消費する。
蜜柑を消費し終えると春を感じるくらい、、というのはウソだけど。
或いは・・老夫婦からの細やかな意趣返しなのかもしれない。
・・ウチの娘のコト、忘れんなよ・・。
無言のプレッシャー。
上等ですよ。
蜜柑、食って償えるんならチョロいもんですよ。
そして私は夢想する。
或る冬、パタリと蜜柑が届かなくなることは間違いない。
その意味することは明白で、その日はそう遠くない。
その時、私は何を想うだろう。
そして彼は。
だが間違いなく私は、もう一度、墓参りに行こうと言い出すだろう。
そして、あの一面を蜜柑の木に囲まれた丘の一角で私は何を想うのだろう。
完結
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