アタシは憤っていた。
・・何を・・
何をそんな哀しいこと・・女々しいこと言ってんだよ・・。
だったら・・だったら・・・
「だったらアンタの残りの人生、アタシに寄越せよ!」
癒えない心の傷があるのなら癒えない儘に。
埋められない心理的な欠損があるのなら埋められない儘に。
癒えない傷も、埋められない欠損も抱えた儘、生きていきゃあいいじゃねぇか。
・・付き合う・・ぜ・・?
パーテーションで囲われた喫煙ルームの中、彼と私は二人きり。
私は激昂の余り絶叫していた。
後から聞いた話では、パーテーションが小刻みに振動していたらしい。
・・・ホントかよ・・。
・・それは盛り過ぎ・・だろ?
やや前傾姿勢の私は心身ともに臨戦態勢。
私は左右の脚を肩幅より、やや開き気味、握り締めた左右の拳を両肩から真下に垂らしていた。
腕と背中がワナワナと震える。
まるで獲物に飛び掛かる寸前の肉食獣であるかのように。
吊り上がった眼がギラギラしているのが自分でも分かる。
紅潮して強張った頬。
そんな睨め付けるような視線を向けられながら、彼は戸惑っていた。
だが彼が浮かべた表情の変遷、、困惑は躊躇いに変わり、ついには何かを決心したかのような。
・・・ん?
猛るアタシに向かって彼は足を進める。
ゆっくりと二人の間の距離が詰められていく。
残り三歩、二歩、最後の一歩分は詰めない。
何故か狼狽える私。
私が彼の顔から視線を逸らした次の瞬間だった。
視野の端、ゆっくりと動き始めた彼の右手が、そっと私の頭の上に載せられる。
「んじゃ、そういうことで。」
「・・・・え?」
「貰ってくれるんだろ?残りの人生。」
・・・え?ウソ?
本当・・なの・・・?
一瞬にして全身の緊張が解ける。
辛うじて立っていることは出来るが、それだけだ。
そっと動かした視線の先、彼の顔。
寂しげで、、だけど少しだけ嬉しげな。
・・あれ?
最初は自分に何が起きているのかが分からなかった。
左右の眼からボロボロと大粒の涙が溢れ続ける。
ア、アタシ・・泣いてる・・?
何で・・?
『何で』じゃなかった。
『嬉しいから』だ。
『渇望していたから』だ。
二度と埋まることはないと諦めていた十年以上に渡る心の欠損が埋まったからだ。
激昂の余り絶叫した女が、その場で、、仁王立ちのまま、、歓喜の余り号泣していた。
うぉおおおぉおおおぉおおおぉ・・
いつの間にかパーテーションの外には、人、人、人。社内の人間で人だかりが出来ている。
彼ら彼女らの醸す大歓声。
・・み、見世物じゃねーぞ・・。
激昂の余り紅潮した顔は見せることはあっても、羞らいの余り頬を染めた姿なぞ見せたことはない。
いわんや、衆人環視の下、泣き出すだなんて空前絶後だ。
その場で私は両手で顔を覆って泣き顔を隠す。
うぉおおおぉおおおぉおおおぉ・・
再びの大歓声。
うるせぇ・・。
見世物じゃねーからな・・。
※元投稿はこちら >>