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風に吹かれて葦がざわめく。そのざわめきの中に行為の一部始終を覗き見ていた目があった事に、お理津は気付かなかった。後を追って来たにも関わらず、よろよろと河原を後にする彼女を見送るばかりで、最後まで声を掛けられずにいたのは紫乃。与兵衛の部屋で一人じっとしている事が、申し訳なくもあり嫌でもあった。
「何してんだろ。私」
まるで強姦のような交わりは紫乃にとっと衝撃だった。そこまでして得る金子は雀の涙で、それでもお理津は守ると言ってくれた。なのに自分はなんと無力なことか。
紫乃は河原沿いの道にある小さな祠の前で、一人膝を抱えて座り込んでいた。このまま甘えていても、いいのだろうか。生きていても、いいのだろうか。夏虫の静かなる声は紫乃を慰めているように優しげであった。
しばらくすると、僧侶の風体をした男が提灯を掲げ、川沿いの道を歩いて来た。坊主頭は宵闇でも目立つ。紫乃は咄嗟に祠の影に隠れ、やがて前を通り過ぎようとしたその時。
「あの……」
「うおっっ!」
僧侶は驚き数珠を出す。
「な、なんじゃ。小娘ではないか。儂はてっきり物の化かと思うたぞ」
よく見れば老体。立派な顎髭は白髪混じりである。
「あの……私を買っては、くれませんか?」
「なっ、出し抜けに何を言うんじゃ」
紫乃は下を向いた。緊張で膝が震え出す。
「お前さんはなんだ。その若さで夜鷹の真似事か?」
「……」
何も考えず、ただ当てずっぽうに声を掛けてしまった。説教でも始まるのかと思いきや、老僧はただ黙って紫乃の手を取る。皺だらけの手が、まるで血が通ってないかのように冷たい。
河原からほど近く、寂れた感じの古寺があった。屋根は茅葺きで苔むしており、種が飛来したのかペンペン草まで生えている。
「ほれ、遠慮はいらん。入りなされ」
真っ暗な本堂の中もまた埃っぽく、ともすれば廃寺にも思える荒れ様であった。燭台に火が灯されると、闇に鈍い輝きを纏いつつ浮かび上がった観音像。手入れを怠っているのか、よく見れば蜘蛛が巣食っている。
「あの……」
「そう緊張するでない。ささ、脱ぐんじゃ」
何もされないのかと微かに持った安心感も、たちどころに消え去った。ただのなまぐさ坊主のようで、禁欲の欠片も無さそうである。しかしいくら俗物とは言え、掃除ぐらいはしないのだろうか。紫乃はここに来て後悔した。やはり怖い。棒立ちのままただ俯いていると、見かねた老僧は口を開いた。
「何も案ずるでない。儂はもうこの歳じゃから、勃つもんも勃たん。ただ老い先短いよって、若い身体を拝みたいだけじゃ」
そうは言うものの男の前で裸になるのは恥ずかしい事に変わり無く、帯を解く手が震える。やがて蝋燭の灯に細い足が浮かび上がった。目の前で胡座をかく老僧の顔は近い。
「ほうほう、肌が絹のようじゃな」
満面の笑顔を見せながら自分の頭をつるりと撫でる。はしゃいだ様子がまるで子供のようだと紫乃は思い、少し緊張も溶け始めた。下衣を脱ぎ、そして緋縮緬の腰巻きがはらりと床に落ちれば、蝋燭の炎を揺らす。あまりにも静かで、衣擦れの音だけがやけに際立つ。
「ほほっ、まだ女になりきれておらん小僧のような身体じゃ。穢れてないのう」
膨らみかけの胸と毛も生え揃っていない股間を手で隠し、顔は灯りのせいではなく赤い。
「どれ。もっとよく見せてみなさい」
言うと老僧は股間を隠す手を退けて、小さく盛り上がった恥丘を左右に広げた。恥ずかしげに顔を覗かす新芽が剥かれ、臓腑の入り口が垣間見える。老僧は手を離し、そして合掌。
「ありがたや。山門の奥に観音様がおられるわい。さて、とくと参拝させてもらおうかの」
不思議そうな顔で老僧を見詰めていた紫乃はその場に座らされる。そして今度は老僧が立ち上がり、法衣を脱ぎ始めた。
「なんと、何十年振りに疼き始めたわい」
筋張った腿の間にぶら下がった物が、別の生き物のように見える。
「頼む。この老いた棹を口に含んではくれまいか?」
哀願に近い。汗とも何ともつかない異臭に顔をしかめるも、紫乃はお理津が久間にしていた唇淫を思い出しながら、力なく揺らぐいちもつを口に含んだ。異物感が口の中に広がる。
「おおぉっ、こりゃ久しいのぉ」
紫乃の小さな口の中で肉の塊がみるみる大きくなり、そして固くなってゆく。唇は押し広げられ、鼻でしか出来ない呼吸がなんとも苦しい。
「こりゃ驚いた! まだ儂にもこんな精力が残っておったのか」
「んー……すん……んふんー」
頬が膨れる。紫乃は苦しさに涙目になりながらも一生懸命口を大きく開け、その若さを取り戻した棹を受け入れた。
「こりゃ死ぬ前に今一度、房事を遂げれるやも知れぬわい」
老僧は目を細めて言った。本尊である木彫観音像の前で、淫靡な音を立てる。紫乃は仰向けに寝かされ、膝を折り曲げた足を抱えるように持たされていた。大事な所が天井絵の極楽図に向けられている。節くれ立った皺だらけの指が、湿り気を帯び始めた縦の筋をなぞらえ、その度に紫乃は小柄な身を震わせていた。
「桜色の割りには、よう濡れるのぉ。煩悩汁にまみれておるわい」
老人相手ゆえの気の弛みかも知れない。いつしか紫乃は脳天を突き抜ける快感に溺れかけていた。
「やはり初物か。はて、儂の老いた棹で破れるかのぉ」
いとも簡単に没入してゆく二本の指が、擦れ、折れる度、敏感に反応し、熱い吐息を漏らす。出し入れしながらも暴れ、踊る度にこぽこぽと音を立てて大惨事。
「男を知らぬにしては淫乱じゃのう。ほれ、ここはどうじゃ」
「あふっ……」
ぬめりをそのまま菊座へと持って行き塗りたくれば、擽ったさと恥ずかしさが紫乃を襲った。人差し指と中指で腟内を遊びながら、同時に親指の腹で菊座を揉みほぐす。
「そ、そこは違います……」
「穴を間違えるほど呆けてはおらんて。まぁ儂に任せなさい」
そう言うと老僧は法衣を拾い、おもむろに印金を取り出した。印金とは携帯できる柄の付いた鈴(りん)である。呼吸に合わせて収縮する菊座に、その印金の柄を当てがった。
「な、なにを!?」
紫乃が息を吐く拍子に合わせ、つぷ、と、親指ほどもあろう柄の先端が押し込まれる。
「くはっ」
目を強く瞑りながら口を大きく開け、しかし声は出ない。呼吸ばかりが荒くなる。しかし息を吐く度、無情にも柄が奥へ奥へと呑み込まれていった。その排泄の感覚は、紫乃を恥辱で犯す。老僧の手には鈴棒が握られていた。
「儀礼じゃ」
チーン……
「んあっ」
菊座に突き刺さった印金を鳴らす。澄んだ鐘の音が本堂に響き渡り、その音色は紫乃の体内にもこだました。
チーン……
「いくっ」
打ち震える肢体。痙攣する肩。陰部からごぼり、と、粘液が零れた。
「お前さん、もう昇り詰めてしまったのか。なんと。のう」
チーン……
「んっっ!」
その時、勢い良く発射された液体は粘液にあらず。それは黄金色の放水。
「おぅおぅ、この娘め、失禁してしまったか」
「いやぁぁぁ……」
止めどなく床を濡らす放尿。しかし老僧は困惑するどころか嬉々とした顔。
「案ずるな。生娘の小水は聖水と言うてな、清らかなる物なのじゃよ」
「はぁ、はぁ、はぁ……」
ぐったりとする紫乃。しかし彼女の心は浮遊し、視界の先の極楽図にあった。ぬるりと印金が尻から抜かれた時、開花した菊より恥ずかしげに空気が洩れた。
「屁も良い」
紫乃にとって絶えず笑顔を見せてくれる老僧は、何もかもを赦してくれそうな、そんな気がした。
「どうじゃ。筆下ろしをこの生い先短い老僧にさせてくれぬか。儂にとって房事はこれが仕納めかも知れんでな」
老僧が覆い被さる姿勢で紫乃を見詰め、髪を優しく撫でると、彼女は小さく頷いた。悲壮感すら漂う言葉に、慈悲の心さえも芽生えてしまう。貧相に痩せ細った体とは不釣り合いに、いきり勃つ陰茎。そのシミも浮き黒ずんだ亀頭が、淡い桜色の割れ目を分け入ってゆく。
「狭いのう。これほどの狭さは初めてじゃ」
「あっ……痛っ」
亀頭が半ば沈んだ所で、紫乃の全身に衝撃が走る。
「痛むか?」
「だ……大丈夫です。どうぞ、突き破ってください」
熱いものが紫乃の体内へと侵入してゆく。他人と繋がり一つとなる感覚に、痛みすら忘れてゆく。老僧は老体に鞭を打つように、精力を注ぐ。やがて奥まで。膜は貫かれ腟が棹によって満たされた。
「ひああぁぁ……」
「ふう」
ひと息ついたのち、ぴんと天井を指した乳首を撫で、舌を這わし、そして吸い上げ、痛みから遠ざけてやろうとする。しかし紫乃の顔は苦痛すらも受け入れ、頬を紅潮させ、快楽の海を漂う喜びすら浮かべていた。老僧にはその姿が神々しくも映る。
「動くぞ」
「はい……あっ」
動くほどに締め付けが強くなり、老僧も遂には我を忘れる。
「こりゃ、観音様じゃ」
強く抱き締めれば、紫乃の体は老僧の腕の中へと綺麗に収まってしまった。頭と肩を抱えながら腰を激しく前後させる。紫乃もまた老僧の背に腕を回すが届かず、ただ張りの無い背中を泳ぐのみ。互いの息が荒くなり、燭台の炎も揺れる。
「おぅっ、おぅっ、おぅっ」
老僧自身もが信じられないほどの激しい動きであった。ともすれば、この娘から若さや力を注ぎ込まられているのでは無いかと思えるほど。しかし、それは紫乃も同時に感じていた。子宮から流れ込んで来る気のようなものが全身に行き渡り、信じられないほど体が熱くなる。全ての神経が研ぎ澄まされ、今なら頭を撫でられただけで気をやってしまいそうである。
「あっ、んっ、逝っ……ちゃう」
「かぁっ!……ふっ!」
熱い精汁が放たれ子宮がたぎる瞬間、紫乃は意識を失ってしまいそうなほどに昇りつめた。止めどなく出される白濁は紫乃の膣を満たし、滲んだ血と混ざり合って遂には外へと溢れ出す。しかし腰の動きは止まらず、射精もまた止まらず。
足が引っ掛かったのだろうか、不意に燭台が倒れ辺りは一瞬薄暗くなった。目をこらして老僧を見れば、白眼を剥き口を開けたまま。なんと、魂が抜けているではないか。紫乃と共に極楽図へと達し、そのまま還らず逝ってしまったのだ。死して尚、腰を振り精汁を出し続ける。子種を残そうとする。
チーーン
他に誰も居ないはずの薄闇の底でリンの音が響き、同時に老僧の動きが止まった。否、止まったのは老僧ではなく紫乃。動いていたのは彼女の腰の方であった。
辺りが明るくなる。倒れた燭台の灯が法衣に燃え移ったのだ。仰向け様に骸(むくろ)が倒れるのに合わせ、紫乃の上半身が起き上がる。辺りを紅蓮の炎が包み始める。なお依然として勃起したままの性器。紫乃は骸に跨がる形で再び腰を上下させた。その目からは留めどもなく涙が流れ落ち、よもや動かなくなってしまった胸板を濡らす。
「う……ひくっ……はぁっ、ん」
泣きながら喘ぎ、吐息をついては鼻を啜る。まるで後を追わんが如く、何度も何度も逝き続ける。やがて骸の顔は穏やかなものへと移りゆき、なんとも満足げな死に顔。往生だったに違いない。火炎の中で、静かに木彫観音像が見守り続けていた。
本堂の引き戸を開ければ紅い月。月光を浴びて浮かび上がる紫乃の裸体は、紅潮しているのか月の色を映しているのか桜色。その顔は表情を失くしながらも涙だけが流れ続け、腿の内側を泡立つ汁が伝う。背後では炎が建物へと本格的に燃え移り、夜空を焦がし始めていた。
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