「紫乃ちゃん……一緒に口でしよ」
なぜか声を潜めてしまう。やがて二つの舌が与兵衛を濡らし始めた。棹を挟んでの口づけで、勃ちながらに立つ瀬も無し。お理津が棹を口に含めば紫乃は陰茎を舐めあげる。びくり、と、股間がぶれる。濡れた音が、そして三人の息遣いが重なり合い、部屋も暖かくなってきた。
「与兵衛さん……」
切なげな声。彼の唇はお理津のそれに塞がれ、股間は紫乃の舌に慰められる。彼の腕がお理津の体を強く抱き締めれば、吐き出される吐息が与兵衛の肺を満たした。
「頂くよ」
お理津は馬乗りとなり、そのいきり勃つものを自らの股に当てがう。
「あぁっ!」
乱れた髪が与兵衛の鼻先を擽った。腰が沈むごとに与兵衛とお理津はひとつになってゆく。
与兵衛の里芋のような膝に、自らの大切な場所を擦り付けて独り遊びに更ける紫乃。しながらもお理津の背後から手を回し、その胸を揉み上げる。根元まですっかり呑み込まれてしまった与兵衛は上体を起こし、そんな二人をまとめて抱き竦めた。二人ともに小柄なためか、いとも簡単にその腕に納まってしまう。
「あぁ……」
お理津は二人に挟まれ、震える唇から幸せそうな声を洩らした。
「紫乃……お前はもう、男が怖くないのか?」
「うん。もう、知っちゃったから……」
腿の内側に血を滴らす紫乃の姿が与兵衛の脳裏に甦る。背中の摩り切れたお理津共々、たらいの二人は尋常では無かった。掛ける言葉も見付からなかった彼は、ただこうして抱き締める事ぐらいしか出来ない。
ゆっくりと腰を上下させるお理津。知らない男と交わっている常とは違い只ならぬ濡れ様で、すでに畳を湿らせてしまった。
「くっ……」
与兵衛は背中の皮膚が捲れるほどに爪を立てられ、その痛みに耐える。
「いくっ!」
と、まださほど動いてもいないのに、お理津は早々昇り詰めてしまった。音を立てて噴き出す淫汁に唖然。
「えらい始末だな」
「お理津さん、すごい……」
「だ、だって……」
お理津の体重が足の付け根にかかり、胸元には痙攣する肩。与兵衛は軽く頭を撫でてやった。
「可愛いところもあるじゃないか」
気に食わないのは紫乃である。自分はお理津をここまで良がらせる事が出来ないばかりか、お理津だけが好きな男と交わえて。
「私も、与兵衛さんとしてみたいな。お理津姉さんばかり、ずるい」
「し、紫乃ちゃん……」
言いながらも乳首が、紫乃の手によって絞り上げられる。敏感な体になりきってしまったお理津は、何も言えず暗闇の中でただ悶える。
「ねぇ、与兵衛さん。お理津姉さんを独り占めしちゃ駄目だよ。私も交ぜてくれなきゃ嫌。仲間外れは、嫌だ」
膝が熱い。与兵衛の中で、徐々に男が頭をもたげる。そうだ。してあげるのでは無い。したい自分が確かに居るのだ。それを認めるか否か、考える余地も無く、紫乃が二人の間に割って入って来た。
「今度は私の番……」
押し倒される形で仰向けになった与兵衛の、鼻先にまだ開かれたばかりの華が押し当てられた。接吻と似ている。そう思えるほどの感触。唾液にも似た粘液が伸ばした舌を伝い、むせ返る若草の匂いが口に広がる。呼吸でもするかのように開いては閉じる陰唇の端、新芽を舌先で刺激すれば敏感に体が呼応した。
「あっ……くっ、くすぐったぃ……」
腹筋と背筋、同時に力を入れながら、与兵衛の顔に股間を押し付ける紫乃。鼻の頭がこつこつと芽を突衝き、舌が陰唇をこじ開ける。鼻息で僅かな陰毛が柔らかくそよいだ。
暗闇の中では、もはや誰が誰だか判らないほどの混沌。交じり合う三人。
「はくっっ」
短い悲鳴は紫乃の物だった。しかしながらその唇はすぐさまお理津のそれに塞がれ、くぐもった喘ぎに変わる。やがて仰向けにさせられ、大きく広げられた足の間に与兵衛が割り込み、そして大事なところに亀頭が当てがわれても、その声はお理津の口へと呑み込まれてゆく。
「入れるぞ」
「んんっ」
割れ目を亀頭が拡げる。滑りは良くとも小さい入り口。粘膜が引っ張られ、痛みが紫乃の体を突き抜ける。しかしその痛みは、お理津の愛撫で上塗りされた。舌と舌が絡み合う。鼻だけで呼吸する事に苦しさを覚えながら。
「ぷはっ」
息継ぎ。
「痛くないか?」
「う……ん」
しかし、束の間。与兵衛の大きさは、紫乃の想像よりも大きく、さらに奥へ。まだ、奥へ。
「くぁ……ぁ」
覆い被さるお理津に強くしがみつく。目隠しでもされたかのような程の暗さに、上下不覚となる。その浮遊感は五感を支配し、思考を停止させた。
「んんんんんっ!」
三人は時を忘れ、朝が近づくのにも気付かずに絡み合い続けた。
雨戸の隙間から白い光が射し込む頃、三人は一様に夢の中。常世から隔たれた部屋の温度は暖かい。そんな中で最初に目を覚ましたのは、与兵衛であった。間接光にぼんやりと浮かび上がる肉体。みな裸のまま、重なり合ったまま。与兵衛は二人を起こさないよう、ゆっくりと腕を引き抜いた。
「……はてさて」
あれほどまでに激しい一夜を過ごしたにも関わらず、この朝の威勢。彼は自らの股間に呆れる思いであった。
「俺は好き者だったのか」
武士たる者、己を律するべしと考えて来たが、身体は正直である。斜陽に浮かび上がる稜線は光る産毛で、息遣いに合わせるように上下している。与兵衛は這いつくばって手を伸ばし、そっと触れ、温もりを確かめた。お理津の腰が弧を描く向こう、起伏の少ない稜線は少年と見紛うばかりの紫乃の体。何も無い部屋よりはいい、と、ささやかな満足感に浸りつつもこんな蜜月、長く続くはずもない。とも思う。与兵衛は着流しを羽織り帯を締め、仕上がった傘を纏める。そして二人を起こさぬよう部屋を出た。
町は晴天。運河沿いの通りを河岸町に差し掛かった辺りで左に折れ、商家の並ぶ町屋へと入る。その中に小ぢんまりと佇む一軒の問屋の前で与兵衛は立ち止まり、狭い入り口の暖簾を潜った。
「これはこれは与兵衛様。いつもご苦労様です」
「おお若狭屋。実は色々と立て込んでてな、これしか仕上げられなんだわ」
「充分でございますよ」
与兵衛は抱えていた傘の束を、店の間から土間に降りてきた旦那に手渡した。黒光りする板の間が静けさを際立たせている。このよく磨かれた床も、暇である事を示しているようにも思える。
「与兵衛様の貼られた傘は長持ちすると評判でしてね。ま、長持ちされてはこちらとしても商売上がったりなんですがね。ははは」
「俺は手抜きはせんからな」
土間に腰を下ろすと丁稚が茶を運んで来た。旦那は傘を抱えて通り土間の奥へと消えて行く。
「どうだ太一。少しは奉公にも慣れたか」
「へい」
太一は昨年、近くの農家からこの傘問屋に奉公したばかりの少年である。歳はまだ十を数えたばかり。
「毎日辛くはないか」
「へい、おかげさまで旦那さまが良くしてくれますので」
太一はにこやかに笑みを浮べて見せた。しかしそれも束の間、眉毛が八の字になる。
「ただ……」
「どうした」
「久間さまの所の紫乃姉さまが、いなくなってしまって」
「ほう……お前、紫乃の事を知っておったか」
「姉さまにはよく遊んでもらってたんです」
紫乃が今どうなっているのか、とてもこの少年には話せない。
「お待たせしました与兵衛様」
通り土間の奥から若狭屋が骨組みだけとなった傘の束を抱えてやって来た。
「ああ若狭屋。その……実はな、俺は暫く傘を貼れぬやも知れん」
「これはまた、なぜです」
「仕官する事に決めたんだ」
訝しんでいた若狭屋は顔を綻ばせる。
「ほっ、これはめでたい」
「いや、まだはっきりと決まった訳ではないがな。ともあれ、また暇になったら貼らせて貰いに来るさ」
与兵衛は腰を上げると太一の頭に手を乗せた。
「しっかり頑張るんだぞ」
「へい」
殷懃に頭を下げる若狭屋に会釈し暖簾を潜れば、賑わいを見せる人々の往来。その中で、眩しげに目を細める彼に声を掛ける者があった。
「おう、与兵衛じゃねえか。何こんな所で油売ってんだ」
そこには裃を穿き、身なりを調えた久間の姿が。
「お前か。それはこちらの台詞だ」
「俺は奉行所に所用があったんだよ。それより与兵衛、お前に良い話を持って来たぜ」
「まさか縁談じゃなかろうな」
「違うわい。ま、歩こう」
大手門へと続く寺町は、打って変わって木魚の音さえも聞こえる静けさ。香の匂いが涼しげな風に運ばれて来る。良い話と言った割に、久間は神妙な面持ちであった。
「で、なんだ。良い話と言うのは」
「ああ。実はな与兵衛。村落取締出役が馬廻りを探しててな」
「なっ!」
与兵衛は足を止めた。村落取締出役とは領内の村落を回り、年貢の不正や抜け荷が無いかなどを監視する役人である。足軽格の手代で、江戸における八州廻りのような物であった。
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