「アタシね、本当は寂しかったんだと思う」
柔らかな胸に顔を埋めれば、そのしなやかな指が僕の髪の毛を掻きむしる。
「こうして誰かに抱かれたいって、心のどこかで望んでたのかもね……あっ」
乳首を口に含んでみれば跳ね上がる肢体。
「でも……抱いてくれるのが、新倉くんで……良かった」
「先輩は、僕が一緒にいてあげなきゃって、思ったんです」
いつも無理してる彼女。細かい事ばかり言うくせに掃除も洗濯もしないで、威張っているくせに寂しがり屋で。そして、いつも男に興味ない素振りなのに本当はいやらしい人。
「だから……二人の時は、本当の律子さんでいてください」
「うん……」
僕が、彼女を癒してあげたい。そう思った。腰から足にかけて撫でれば吐息。胸の膨らみを口に含めば喘ぎ。ゆっくりと繋がって行けば、震える唇。
「あっ……ん、そこ」
「ここ?」
かき混ぜるように激しく。時にはゆっくりと奥まで。背中に差し入れた左手は彼女の肩へ。右手は頭を抱え込むようにすれば先輩は僕の腕の中。ずっと朝まで、こうして繋がり続けていたかった。
カーテンがぼんやりと白い。静けさの中、僕の隣で寝息を立てる温もりで、ここがどこだか思い出した。裸のままの寝姿に抱き付けば、目を覚ます先輩。
「ん……おはよ、新倉くん」
「おはようございます」
昨夜は二人して結構酔っていたけど、あれは夢なんかじゃなかった。
「んふ、朝から元気……」
寝起きで裸のまま抱き合っていたら無理もない。
「せ、先輩、やめ……」
優しく握られて更に固く。まだ夢の中を漂ってるような、そんな気がする日曜の朝は怠惰。
「このまま新倉くんに首輪はめてウチで飼いたいな」
「僕ぁ犬じゃないです」
僕の首に手を回して、先輩はそんな事を言った。
「仕事から疲れて帰って、誰かがいつもお出迎えしてくれたら素敵じゃない。ついでに掃除とか洗濯とかもしてくれたら、もっといいわね」
「それじゃ普通に主婦じゃないですか」
毛布の中、手持ちぶさたとでも言いたげに、僕の性器を弄り続けている。汗ばむ下半身。
「そうね。アタシ、奥さんが欲しいのかも」
ケラケラと笑った。確かに、彼女に主婦業が向いていないのは明白だ。
「そうだ! 新倉くん女の子の格好とか似合いそうじゃない?」
「やめて下さいよ。僕はオカマじゃないんですから」
「でも新倉くんて結構童顔だし、絶対似合うわよ。ね、ちょっとアタシの下着、着てみなさいよ」
ふとした瞬間、彼女は命令口調になる。そして上から言われると条件反射的に逆らえなくなってしまう僕は、やはりこの人の犬なのかも知れない。
毛布を捲り上げてタンスを漁っていた先輩は、その手に女性用下着を持ち僕に見せた。
「マ、マジですか!?」
「んふふー、覚悟しなさい」
どうやら冗談ではないらしい。僕を起こして背後に回り、背中から抱き締めるようにブラを宛がう。
「新倉くん痩せてるから大丈夫そうね」
胸の辺りが締め付けられて、なんか変な気分。
「恥ずかしいですよ、こんなの」
「二人しか居ないんだからいいじゃない。似合ってるわよ」
そして、到底穿けそうもない小さなパンツを僕の投げ出した足に通す。立ち膝になれば引き上げられて、キツそうに思えたそれは意外と穿けるもので。
「もう。勃ってるから先っちょが顔出しちゃってんじゃない。興奮してんの?」
「すいません……て言うか、情けないですよこれー」
「アハハ、なんかすごくエロいわぁ」
こんな楽しそうにはしゃぐ先輩は初めて見た。だから、まぁいいかなんて思っていると、彼女はポーチを持って来て口紅を取り出す。
「待って下さいよ、それはさすがに……」
「じっとしてなさい」
意図せず女の子座りとなった僕は、ギュっと目を瞑る。顔じゅう弄られて、その間もずっと彼女の含み笑い。
「こんなとこかしら」
ゆっくりと目を開ければ、にこやかに手鏡を持つ先輩。
「いやいやいやいや、ないないないない」
「えー、可愛いじゃなーい。このまま首輪して街中引き摺り回してあげたいくらいよ」
「勘弁して下さいよー」
本当にやりかねないから怖い。また先輩の新たな一面を見たような気がする。
「可愛いわよ新倉くん。本当に女の子みたい」
頬にキスされて、なんだか気恥ずかしいような嬉しいような。それも束の間、先輩の細い指先が、女性用下着からはみ出した僕の敏感な先端を撫でる。
「あっ……」
思わず声が漏れてしまった。右の頬からゆっくりと首筋へと伝う舌にぞくぞくして、右肩がびくりと跳ねる。
「やめ……先輩……」
「先っちょから何か出て来ちゃったよ」
「そ、それは……」
尿道から裏の筋伝いを、優しく撫でる指先。腰が跳ね上がる。ブラを上にずらされ、乳首を舐められただけで快感が突き抜け、僕は苦しいくらいに呼吸が早くなる。
「んあぁっ!」
頭や顔の表面ががジンジンして、感覚が麻痺してきた。過呼吸の症状。そんなに僕は息が荒くなっているのか。
「感じるんでしょ。女の子みたいに」
「は、はい……」
顎の下にあった先輩の頭が、お腹の方へと沈んでゆく。
「うっ……く!」
舌先で尿道を擽られ、全身が震える。先端から徐々に全体へと唇に包まれて行き、僕は思わず強く、すがるように彼女の肩を掴んだ。心許ない女性用下着は下に捲られ、下半身が解放されたかと思いきや、細い指先に捕われる。すかさず激しい手の動きで……。
「律子さん……あんまり、こすんないで下さいよ。僕……」
「イッちゃう?」
悪戯っぽい顔。顔を赤くして頷く僕。
「ダメ。まだイッちゃ」
時間が止まった。口を離した先輩が僕を見上げ、向けらる嗜虐的な微笑み。仰向けに押し倒され、押さえ付けられ、やがて僕に跨がったかと思えば、迫る股間。
「今度は新倉くんが舐めるのよ」
「ん」
押し付けて来た部分はすでに濡れていて、固い毛が鼻先を擽る。窒息しそうで咽ぶ。僕は必死になって舐めた。
「あぁっ……」
口いっぱいに、鼻腔の奥まで先輩が広がり、脳が侵食されてゆく。ごりごりと擦り付けられ、呼吸も困難。僕の顔はぐしゃぐしゃに濡れてゆく。
「なんか、アタシが新倉くんを犯してるみたいね」
顔が解放された。新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込む。半ば放心状態でいると、先輩は僕の性器にゴムを着け始める。
「じっとしてなさいね。今、食べてあげるから」
僕の目を見ながらそう言うと、お腹の上でしゃがみ込むように腰を落としてゆく。やがて下半身が彼女の温もりに包まれる。髪を振り乱しながら、お尻をリズミカルに上下させる先輩。その締め付ける体で僕を擦り上げ、絞り上げ、いやらしい音を立てながら快楽の果てへと連れ去ってゆく。
「いくっ……」
「アタシ……もっ!」
倒れ込み、覆い被さって来た先輩に抱かれながら僕は、昇り詰め、出しきり、そして果てる。強く抱き締める先輩の腕は拘束。
「新倉くんは……アタシのもの」
気付けば、あの日みたいに天気が崩れ始めて静かな雨音。二人の体温で部屋の気温はすっかり高くなり、蒸し暑いほど。
「律子さんの……変態」
「ンフ、そうかも」
なんだかこのままずっと飼われるんじゃないか。そんな気がした。
街はすっかり梅雨入りしたと、ニュース番組が宣言していた。もし僕が居なければこの部屋はカビだらけになっていただろう。
プシュ
「缶ビールとか開けてないで、洗い物ぐらい手伝って下さいよ」
「いや、まず仕事から帰ったらコレでしょ」
先輩のマンションには必ず立ち寄るようになって、自宅へ帰らない日もすっかり多くなった。もう、半同棲と言っていいだろう。
「そうやってビール開けちゃうから炊事とか洗濯とかしなくなっちゃうんですよ」
「まま固い事言わないで、新倉くんも一本飲みなさいよ」
なんだかいいようにコキ使われているような気もするけど、放っておけない僕の性格も良くない。
「晩ご飯は適当な炒め物でいいですか? 残った人参使わないといけないし」
「んー、その前に、新倉くん食べちゃおうかな」
「ちょ、センパ……」
外は相変わらず雨だから帰るのが面倒。そう言って雨が降るたびに先輩の部屋に泊まっては、雨音を聞きながら朝まで抱き合っていた。
――完――
※元投稿はこちら >>