その冷たい手を握ると砂だらけ。でも、強く握り返してくれた。
「慎治もさー、大人だと思ってたんだけど、所詮男なんてみんな一緒だねー。彌久ごめんね。変なのに巻き込んじゃって。しかも、アンタの初体験まで私……」
「ううん。私は、香奈と一緒に居られるだけでいいの」
私は香奈だけのお人形さんだから。そう思ってたけど、もしかしたら、私の方がそうやって香奈の事を縛り付けているのかも知れない。
「泳ごっか!」
「ええっ!?」
誰も居ない砂浜で、ぐしょぐしょに濡れた服を脱ぎ捨てて海へと走り出す香奈。
「早くー! 彌久も来るんだよ!」
「えー……」
躊躇いながら、私も制服を脱ぎ捨てて後を追う。でも、私は香奈のこんな破天荒なところが好きなんだ。
「早く早くーっ!」
いつしか降り止んだ雨。波打ち際から一歩踏み出せば掬われる足元。飛沫を上げながら膝ぐらいのところまで走り、追い付いたと思えば白い泡立ちの中へと身を沈める香奈。見えない砂が肌を滑る感触を感じながら、私はお尻を波の底について、膝を抱える香奈の背中に抱き付いた。
「彌久。このまんま波に浚われてさ、あの真っ暗ん中に呑まれちゃおっか。こんな世界なんかより、いっそ……」
波に揉まれて翻弄される体。でも一人じゃないから恐くない。
「香奈がもしそうするなら私も一緒に行くよ。だから、香奈は勝手にどっか行ったりしないで」
香奈は振り返って私の方へと向き直る。そして膝の上に乗っかる形で跨がると、その両腕を私の肩に乗せた。傾げた顔が私を見下ろし、かと思えばその瞳に光が宿る。淡く青白い光芒それは……。
「あ、見て見て香奈、お月様が出たよ」
「ほんとだ……」
雨上がりの夜空。雲の切れ間から顔を覗かせた月はおぼろ。闇の海原に一筋の光。その光景を見ながら香奈が言った。
「……でもま、もうちょっと生きてみよっかな。まだまだ私の知らない面白い事、あるかも知んないし。彌久にももっと色んな事したいしぃー」
「……なんか、やらしいよ」
強く抱き締め合いながら唇を重ね合い、そして舌を絡め合う。
「香奈、こんなところ誰かに見られたら……」
「大丈夫よ。今この世界には、彌久と私しかいないの」
お互いに外し合ったブラが、波に浚われてゆく。香奈は私の頭を抱え込んで自らの胸を私のそれに押しつけた。擦れ合う乳首に私たちの吐息も重なり合い、潮騒に溶けてゆく。
右側には寝静まった日常。左側には月の下、深い闇に覆われた冥界。その狭間に私と香奈だけの居場所。二人だけの秘密の世界がここにある。
【完】
※元投稿はこちら >>