「ホントは紐かなんかの方がいいかも知んないんだけどねー」
香奈は自由を奪われてゆく私を助けるどころか、そんな事を言い出した。
「今度買っとくよ。鞭とか蝋燭とかは?」
「なぁに? 慎治も縛ってもらいたいのぉ?」
「バカ言え。っていうか、お前もSか!」
「うん、ドSかもー。でもこの娘はきっとドMだよ」
そうなのかな。うん、そうなのかも。だって、さっきから心臓が苦しいくらいで……。
「もっと色んな事されて遊ばれたいんでしょ」
心を読み透かすような囁きは、耳許に息が掛かる近さ。首筋をなぞる指先。
「違っ……あっ」
広げられた足の間に健介さんのニヤけ顔。指で左右に広げられ、潜んでいた粘膜を暴く。
「うわ、超濡れてんじゃん」
「へぇ、香奈のよりちっちぇーんだな。色もピンクだし」
「アハ、うねうね動いてるよ」
みんなが、上を向いて口を開く私の恥ずかしい所を観察している。体の中まで見詰められながら、健介さんの指にするりと滑るよう、なぞられる。時計の針の音と不協和音を立てながら、納豆をかき混ぜるような音。激しくなるにつれて、耳鳴り。私は不自由な姿勢の中で、ぶるん、と、小さく跳ねる。
「彌久ってやっぱ、こう言うの好きなんだね」
「あくっ!」
背後から伸びる細い手に、胸を鷲掴みにされる。首を激しく横に振りながら、言い訳出来ないくらい感じている自分。
「だっっ……めっ!」
「じっとしてなきゃダメ。彌久は私のお人形さんなんだからね」
「えー、俺のじゃねぇの?」
「私のだよ。でも、健介さんだったら貸してあげてもいいよー」
ダメ。私は香奈だけの物なんだから。なんて想いを砕くかのように、聞き覚えのある携帯の電子音がしたと思ったら、頭の上から携帯を構える香奈の姿。
「やだ、何撮って……」
「アハハ、バッチリ撮れちゃった」
「あ、それ俺にも送ってよ」
「自分で撮ればいいじゃん」
「なぁ、これとか、入れてみねーか」
「あ、いいじゃーん」
何?
今度は何されるの?
「ねぇ彌久。コレは何でしょー」
それはビールの空き瓶だった。信じられない光景だった。ぼやけた視界の先で、突き立った空き瓶が私の体内へと沈んでゆく。もう、声とか我慢できない。脚は限界まで折り畳まれて、膝が耳を塞ぐ。
「もう……やめてぇ……」
「うるさいなぁ、口も塞いじゃおっか」
ジッッ
「んっ!」
ガムテープで口を塞がれて、だけじゃなく、タオルで目隠しまでされてしまった。薄いタオルを透かして届く蛍光灯の光で、真っ暗にこそならないけれども塞がれた視界。その中で、太腿を掴むゴツい手と、胸を包む細い手を感じる。後は自分の鼓動と濡れた音。お酒と煙草の匂い。
「んんっ!」
にちゃり、と、音を立てながら入っては抜かれ、そのたびに瓶の先端がゴリゴリと内側の壁をこする。
何も見えず、何も言えず、身動きも出来ない。私はただ身体中を支配する悦楽に飲み込まれてゆくがまま、自分を失ってゆく。羞恥心もプライドも、心も……ううん、もしかしたら、そんなもの初めから無かったのかも知れない。全身の筋肉が緊張して、そのまま私は一気に昇りつめてゆく。絶頂の波を止められない。全身を駆け巡る刺激に痙攣、止まらない。
「んんっ!……んんっ!」
「うわ、こいつまた汐吹いちゃってんよ」
慎治さんの浮かれた声を聞きながら、身動き出来ない中で跳ねる私。閉ざされた視界が白くなってゆく。私の身体は硬直したまま、心はふわふわと漂う。
「あらら、彌久ったら空き瓶なんかでイッちゃったのぉ?」
不自然な格好のまま横向きで床に転がされた私の体。ツルリ、と瓶が抜けた。
……どれだけの時間が過ぎたのか、突然視界を襲う光の洪水。目隠しと口を塞いでいたガムテープが取られたからだと気付くのに、少し時間がかかった。私を取り囲むシルエット。
「気分はどう?」
「あああ、か、香奈ぁ……。あたし、あたしぃ……」
「アハハ、超アホみたいなツラー」
「うわぁ、目がイッちゃってんな」
数え切れないくらいイッちゃって、なんだかもう苦しくて、意識が遠くなりそうだった。
「香菜ぁ……もう、ほどいてぇ……」
「だーめ。今夜はずっとその格好のままよ」
「おねがいぃ……トイレ、いきたいぃ」
「何? オシッコ?」
不意に襲って来た尿意だった。
「……うん」
「あ、俺、一度女の子が小便してんとこ、見てみたかったんだ」
「健介!……俺もだぜっ」
「あんたたちヘンタイ!」
「いいじゃんかよ、ちょっとした好奇心だよ!」
そんな、この人たち何を言って……。
「しょーがないなー。じゃ、お風呂場でさせちゃう?」
「やぁ……そんな、普通にトイレ……あぁっ」
「なあに? 口答えすんの?」
身体はまだ敏感なままで、髪をちょっと触られただけで跳ね上がってしまって、そんな有り様だから両脇を支えられないと立つ事すら出来なかった。
鋏でガムテープを切ってもらい、私は怪我人でも運ぶかのようにして連れて行かれる。玄関の左側、狭くてカビだらけのバスルーム。
私は不安定なバスタブの縁に、浴槽へ向かってしゃがまされた。ボヤけた視界の中、大事なところの目の前には慎治さんがしゃがみ、後ろから健介さんに支えられる。
「やだよぉ、こんな……」
「サッサとしなさいよ。私の言う事聞けないわけ?」
仁王立ちの香奈の高圧的な言葉。
「でもこんな、見られてたら、出ない……」
「しなかったら金輪際遊んであげないよ」
嫌。それだけは嫌。
「ほら、出しちまいな」
健介さんに下腹部の辺りを押される。と、同時に尿道の辺りを指で刺激される。お尻に力が入らなくて、我慢出来なくって。
「だ、だめぇーっ!」
勝てなかった。バスタブの底を叩く水音だけが、やけに大きい。一度漏れ出すと止まらなくなった。香奈は急いで携帯を持ってきて、こんな私の姿を写真に収める。
「だー……めぇー……」
絶対ひとに見せれない姿を見られちゃってるのに、心臓が苦しいほどドキドキしている。本当だったら泣いてたかも知れない。だけど今は、どこかのネジが弛んでしまったみたいで、何をされても、どんな姿を見られても、全てが喜びや快感に変わってしまう。もっと私で遊んで。もう、放って置かれるのは嫌。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
出し尽くすと、香奈がシャワーで黄色くなったバスタブを洗い流し、ご褒美とばかりにキスをしてくれた。
「やだー、あんたたちなに興奮してんのよ」
立ち込める湯気の中、目を凝らして見れば二人の目は血走ってるみたいで、なぜかあそこが大きくなってる。
「いやなんか、エロいなって。なぁ慎治」
「ああ、すげー変態チック。なぁ、香奈もここで……」
「バカ言ってんじゃないの!」
頭の上からぬるま湯の集中豪雨。ベタついた汗が洗い流されてゆく。
「うわっ、コラ、やめっ!」
「キャハハハハッ」
シャワーが背中からお尻を叩く。再び立ち込める湯気と湿気。その中で健介さんが私を抱きしめ、やがて背中に密着する慎治さんのの体。二人に挟まれる私。降り止まないシャワーの雨と飛沫が汗を洗い流し、流された先からまた汗が噴き出す。浴室にはみんなの荒い息遣い。
「彌久。気持ちいい?」
「うんんっ、いいいーっ!」
私の体は他人のためにある。私が出来る事は、この体を差し出して、楽しませる事ぐらいなんだ。体しか無いから。人形に、心なんて無いから。
「どうしたの? 彌久」
「ううん、何でもない」
この視線は中山君だろうか。あれ以来彼とは一度も話していない。だけど、そんな陰から覗いていなくてもいいのに。
「聞いて聞いて、昨日さ、慎治がね、ラブホ連れてってくれたんだー。私初めてでさ、超テンション上がっちゃってさー」
最近香奈は慎治さんの事ばかり話すようになって来た。私はと言うと今週末、健介さんに誘われている。本当は香奈も一緒じゃなきゃ嫌なのに、二人きりだって言う。
「ゲームとかやり放題だしさ、カラオケまであんのよ! ヤバくない?」
「ふーん」
「彌久はどうなの? 健介さんとは」
「んー、誘われちゃいるんだけどねー」
「なーによー、その気の抜けた言い方」
健介さんは優しいし、カッコいい。それにエッチまでしちゃった仲だけど、でも多分、これは好きとは違う気がする。
「阿部……」
放課後の帰り際、背後から中山君が話し掛けて来た。モノレールの駅の階段を、息を切らして昇って来る。夕日が竹林に沈み、涼し過ぎる風の音。
「その、この前はごめん。いきなり帰っちゃって」
「ううん、私の方こそごめんね、なんか」
中山君は息を調えて下を向く。何かを言い出すのか、そう思っていたら暫くの沈黙が訪れた。
「あの、俺……」
やっと口にした言葉を遮るように、モノレールがホームへと滑り込む。
「乗ろ。どうせ帰り道一緒なんだし」
「あ、うん」
少し時間が早いせいか乗客は疎ら。私と中山君は最後部のボックスシートに座った。時折右手の車窓から飛び込んで来る、沈みかけの夕日が眩しい。
「阿部さ、好きな人は居ないって言ってたじゃん」
「うん。居ないよ」
「俺、ずっと、阿部の事、好きでいてもいいかな?」
何も感じない。それは多分、彼の気持ちが全く解らないからだと思う。
「でも私、中山君の気持ちに答えてあげれないよ?」
「いいんだ。別に。それでも」
ずっと俯いている。額に汗を浮かべながら。
「他の人、好きになった方がいいよ。私なんて忘れて」
「無理だよ!」
なんだか責任を感じて来てしまった。何も悪い事なんてしてないのに。たとえ付き合ったとしても、私が与えられる物と言えば……。
「中山君。じゃぁさ……私にできる事、してあげよっか」
「できる事?」
周りには誰も座ってない。ワンマンだから車掌さんも居ない。私はおもむろに、向かいの席に座る中山君の学生パンツを触った。
「なっ、お、おい」
「私ってさ。多分こう言う事しか、してあげらんない人間なんだ」
ベルトを外そうとしたら、彼の手が私の手を止める。
「いきなりそんな、こんなとこで」
「嫌なの?」
「嫌……じゃ、ないけど」
「あ、でも後で……お小遣い頂戴。ちょっとでいいから」
いっそ、そういう女だと思って欲しい。私なんかを本気で好きにならないで欲しい。
「阿部お前まさか、援交とかしてんの?」
「してない……けど、したいんなら援交してあげても別にいいよ」
駅に止まっても誰も乗っては来なかった。下を向く彼は複雑な顔をしているけど、私は何も言わずにチャックを下ろした。やがてパンツの中から探り当てたものは、やはり。
「なんだ。やっぱしたいんじゃん」
「いや、これはその……」
下着の脇からニュッと生えたそれを口に含んだ時、モノレールは加速してトンネルへと入る。窓の外は闇で塗り潰されて車内灯。一瞬だけの夜。激しい騒音で何も聞こえない。ただ湿気を伴った熱が私の鼻孔を襲うだけ。膝の上で握り絞められた拳は血管を浮かべ、学生パンツに皺を寄せる。今ひとつ上手くできないけど、中山君は腰を浮かして押し付けて来た。私は涙目になりながら、根元まで。
やがてトンネルを抜けると、再び夕暮れの鎌倉山。通路を挟んだ反対側の車窓から差し込む夕日に、狭いボックスシートが照らされたその瞬間、どくどくと口の中が満たされた。彼は体を震わせるとともに、その先端より熱い粘液を吐き出し続ける。私は白濁を含んだまま狼狽え、慌てふためき、鞄から取り出したティッシュへ。
「ご、ごめん」
生理的な不快感に襲われて吐き気。でも、彼の顔がなんとも惨めで、笑いが込み上げて来た。そうだ。結局男って、出したいだけなんだ。そう考えると楽だ。出すためなら、こんな私でもいいんだ。
「ね。もっと、続きする?」
私、今、どんな顔してるんだろ。いやらしい顔付きだろうか。もしそうだったとしても、中山君の血走った目の方がよっぽど卑猥な筈だ。でも、その顔を見てやれない。
「俺……俺……」
「何も言わないで……お願い」
スカートを少しだけ捲って見せる。恥ずかしさにドキドキするけど、ドキドキがゾクゾクへと変わってゆく。身を乗り出してスカートの中を凝視する彼。それでいい。それでいいんだ、とは、思うけど……。
「か、顔近いよ」
鼻息を内腿に感じるくらいに。震えてるのに、膝を広げる私。
「触っても……くっ……いいよ」
顔を背けながら言ったら、息苦しいほどに自分の呼吸が荒れてると気付いた。
そうか。
彼のためにこんな事してるんじゃないんだ。
自分が見られたいんだ。
弄って欲しいんだ。
遊ばれたいんだ。
結局、誰だっていいんだ。
震える指が下着の上を縦になぞる。私はビクリと反応を隠せない。
「湿ってる……」
「うそっ!?」
確認してみたら、いつの間に私こんなに濡れてたの? 替えのパンツなんて持ってないのに。
「あっ」
強く圧されて思わず声が出ちゃった。私は焦り手の甲で口を塞ぐ。右手の通路に身を乗り出してそっと車内を窺うけど、三人しかいない乗客は誰も気付いてない。
「あ、ちょっ……」
彼はすでに我を忘れてしまったのかのように、パンツを横から捲り上げ、直に触って来た。
「ぬるぬるしてる」
息を荒げながら釘付け。
「ま、待って、今下ろすから」
もう手遅れなくらい汚れてしまった下着を、腰を突き出すようにお尻を浮かせて下ろした。靴を脱ぎ、いっそ完全に脱いでしまう。
「ね、隣座って」
「あ、ああ」
荷物を前に置くと彼は左隣に座り、肩が触れ合った。おもむろに彼の股間へと手を伸ばせば、早くも稜線を象った硬さ。手をクロスさせ、彼の手は私のスカートの中へ。他の乗客に気付かれたらと思うとドキドキして、濡れて、モノレールは揺れて。
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