「中山君てさ、まだ私の事見てるでしょ」
声を掛けたのは雨の放課後。彼を意識しだして初めて、その視線にも気付くようになった。
「ご……ごめん」
「ううん。いいよ別に」
この前告白された体育館脇。今度は私が待ち伏せしてやった。疎らになったとは言え下校する傘は絶えず、人目を憚って錆ついた物置の裏。屋根の張り出しは僅かで傘も畳めない。
「私のこと見ながら何考えてたの?」
「いや、その、なんだか雰囲気変わったなって」
体育館の中からキュッキュとバスケ部の練習が聞こえる。
「嫌いになった?」
「い、いや、そんな事は……。やっぱ、その、かわいいなって」
ドキリとする。健介さんたちに言われた時と違って、苦しいくらいの高鳴り。私まで顔が真っ赤になってしまう。
「嘘。……ホントはエッチな事ばっか考えてたんでしょ」
「え? あ、いや、そんな、違っ……」
男なんてみんなそうだ。そうに決まってる。
「中山君てさ、本当に私の事、好きなの?」
「……うん」
「ただ私と……したいだけなんじゃないの?」
「そ、そんな事無いって!」
狼狽えてる。この前は私がこんな感じだったのに。
「私……たぶん中山君の事、好きになれないと思うの。好きって、どういう事かわかんないし」
たぶん……誰も好きになれない。香奈以外は誰も。たとえ健介さんでも。
「阿部……」
「ごめんなさい。でも、嬉しいよ。私なんかを見てくれてたなんて……」
雨脚は激しさを増し、傘を叩く音が煩い。脛が飛沫で濡れる。グラウンドを覗き見れば靄が掛かったように地面が見えない。
「雨、強くなって来ちゃったね」
中山君は俯いたまま。なんだか悪い事をしちゃったような気がして来た。
「阿部ってさ、やっぱ誰かと付き合った事とか、無いんだろ?」
半分決め付けられた質問にイラっとする。当たってるけど。
「無いよ。告られたのだって、中山君が初めてだったし。……あるわけ無いじゃん、私なんかが」
だから何さ。なんだか、だんだん面倒臭くなって来た。
「でもね、付き合った事は無いけど、経験はあるよ」
「なんの?」
「せっくす」
「ええっ!」
彼の顔が青ざめてゆく。人が絶望した時の顔ってこんなんだろうか。なんだろ、私、変な所で意固地になってる。
「私ね、好きでもない人ともエッチできるんだ」
「そんな……嘘だろ?」
「がっかりでしょ」
これは、中山君の気持ちに対する裏切りだろうか。
「嘘だろ!」
透明のビニール傘をさしたまま、雨の中へと駆け出してゆく。水飛沫を立てながら。なぜだろう、悲しくも無いのに涙が出て来て止まらない。むしろ雨にけむる中山君の後ろ姿が可笑しくて、笑ってやりたいくらいなのに。笑ってやれたら少し救われるような気がするのに、どうして涙が止まらないんだろ。
私は人を傷つけたんだと思う。いっそ、エッチの対象としか見られてなかったら、気が楽だったのかも知れない。
午前零時。今ごろ中山君は一人ベッドに潜って、妄想の中で私を裸にしてるんじゃないかな……こんな風に。
外泊する事が頻繁になってもお母さんは何も言わない。だから、私も何も言わずにここに居る。煙草は無理だけど、お酒なら少しは飲めるようになりそう。
「ブラもだよ」
「えー、恥ずかしいです」
「嫌だったら一気だぞー。な、健介」
「とーぜんっ」
みんな服着てるのに私だけ脱ぐなんて。香菜にジャンケンで負けただけなのに。
「だいたい、なんで健介さんたち参加しないんですか」
「そうだそうだ! 彌久の言うとーり!」
「だって俺らが脱いだってツマンネーじゃん」
「つまんなく無いぞー」
香菜はかなり酔っている。私も思いきり酔ってしまえれば。
「これ以上は恥ずかしくて無理ですよぉ。だから、一気します」
「えー」
「マジかよー。オッパイ見せろよー」
「み、見せるような立派なもんじゃないです!」
健介さんと慎治さんは声を揃えて残念がった。彼らはスケベだけど面白い。
みんなの掛け声に合わせてグラスの酎ハイを空ける。口の中の冷たさと炭酸の刺激さえ我慢すれば平気。ご褒美に拍手。ちょっと照れ臭い。
「じゃぁ今度は全員でジャンケンねっ!」
「いいぜ、その代わり負けた奴は勝った奴の命令、絶対聞くんだぞ」
彼らと知り合うまでは騒ぐなんて事、無かった。もし中山君と付き合ってたら、こんな楽しくはなかっただろうな。うん。振って良かったんだよ。きっと。
パチンコ屋さんの音。テーブルに散らかるポテチのカケラ。青白い靄みたいに漂う煙草の煙。誰も回そうとしないから、私が換気扇を回した。
「また俺かよ! 四連敗じゃねぇか。香奈テメェ少しは手加減しろよな!」
「ジャンケンに手加減もないでしょ。ハイ、パンツ脱いでー」
「マッパかよ!」
「アハハ、慎治さん弱っ」
笑いながらも心臓はドキドキ。横目でチラ見してみれば意外と筋肉質で、でもやっぱり下半身は見れなくて目を逸らす。
酔った勢いにしたって、ここまで脱がなくてもいいのに。私と香奈は下着姿にされちゃって、ちゃんと服着てるのは健介さんだけになっちゃって、どこまで続けるんだろーって、少し不安になって来ちゃってて……あれ? さっき一気なんかしちゃったから、あたしちょっと酔っちゃってる?
「よーっしゃーっ! やっと勝ったぜ。香奈、よくもやってくれたなぁ」
最下位の香奈は慎治さんの命令を聞かなきゃなんなくって、全部脱がされちゃうのかなー、と、思ったら、ニヤニヤしながらとんでもないこと言い出した。
「くわえろー」
「えー、マジでー?」
ほっぺた膨らませてんのに素直に従っちゃう香奈。そこまで……うわ、しちゃうんだ。でも、チラッと見えた横顔は笑ってて、裸であぐらをかく彼のお腹にその顔が埋まってった。
「じゃぁコイツは一回休みで三人でジャンケンな」
お蕎麦啜ってるみたいな音。テーブル越しに上下しながら見え隠れする耳は真っ赤。フツーな顔して煙草をふかす慎治さん。
……あ、負けちゃった。
「うーし! じゃぁ健介、勝負だ。ジャーンケーン……」
勝ったのは健介さんの方だった。やっぱり二人の注目が私に集まって、つい、両腕でブラを隠す。
「いよいよ彌久ちゃんのオッパイ……」
「ハハハ、勝ったのは俺だぜ慎治。そうだなぁ、コイツらと同じ事、俺にもしてくんね?」
一瞬言葉を失う。
「……ええーっ! そんな、した事ないし」
「勝ったやつの命令は絶対つったろ? だーいじょうぶ簡単だから」
言いながら早くもベルトとボタンを外してファスナーを下ろし、下半身を惜し気無く出しながら手招き。
「香奈ちゃんのしてんの見てさ、真似してみ」
恐る恐るテーブル越しに覗き込んでみれば、顔を赤くしながら一生懸命な香奈。激しく頭を上下させながらその右手は自らの股間へと滑り、下着の上からこすっていた。スイッチが入ってる。なんてイヤラシイ香菜。慎治さんはそんな彼女の頭に左手を添え、右手には缶ビール。
「コイツ、すげー上手いんだぜ。彌久ちゃんも練習しなきゃな」
「おいで、彌久」
別に恋人でもないのに、健介さんに呼び捨てにされて一瞬ドキリ。近寄ってマジマジと見れば、ちょっとグロい。けど、我慢して口をつけてみた。
「そう。ゆっくりでいいから」
口の中に触れないよう、口を目一杯開いて頭を沈める。鼻からしか呼吸出来なくて苦しくて、自分の息が荒くなっていたのだと知る。よだれが垂れちゃいそう。やがて体温を口に含む違物感に、思わずオエってなって吐き出しちゃった。
「ケホっ」
「あんま無理しなくていいよ。舐めるだけでも」
張り詰めてる。脈打ってる。私の中に入りたいって訴えてる。私は先端から根元に向かって舌先を這わせてみた。彼の優しげな掌が髪を撫でる。
「ねぇ、ジャンケンは?」
「いいよもう。そんなの」
ブラの上から胸を触られ、私は身をよじる。そんなささやかな抵抗を余所に、テーブルの向こうでは香奈の喘ぎ声。
「痛っ」
テーブルの足に膝をぶつけた。たぶん私、この前より酔ってる。なんだかフワフワしてて抱かれても実感が湧かない。ただ、さっきから触られ続けている胸だけに神経が集中して、思考が色を失くしてゆく。香奈と同じような、声が出ちゃう。
「あら、この前と違って、超感じちゃってんじゃん」
「彌久ちゃんて、こんなにエロかったんだね」
「お前らわざわざ見にくんなよ」
いつしか香奈と慎治さんが傍に来て、健介さんの股ぐらにうずめる私の顔を覗き込んでいた。
「あーもう彌久ったら、下手くそだなぁ。見てらんないよ」
じゃぁ、見なきゃいいのに。
「香奈、お前がちょっと教えてやんなよ」
「うん。彌久、ちょっと貸してみ」
突然しゃがみ込んだ香菜の顔が私の隣に。
「おいおい、健介ので教えんのかよ」
「まぁそう固てー事言うなよ、慎治」
「こうすんの。よく見てて」
すると目の前で、香奈は健介さんのを口に含み始めた。なんていやらしい音。しゃぶったり吸ったり、かと思えば口から出して舌を這わしたり。
「ほら、彌久も一緒に」
それ自体が別の生き物のような、そそり立つ一本の肉。それを香菜と一緒に舐め回す。たまに頬と頬が触れ合ったり、かと思えば唇と唇で先っぽを挟んでみたり。
「おいおい、あんますんと俺、すぐイッちまうって」
先端から糸を引きながら先走る透明な何か。舌先でそれを拭う香菜の横顔は、笑顔を含んだ上目遣い。
「いいじゃん、このまま出しちゃえば。それともこの娘の中でイキたいの?」
「そりゃぁ……まぁな」
「しょうがないなぁ。彌久、ちょっと立って」
香菜に支えてもらいながら立たされる。途端にストン、と、下ろされるパンツ。朦朧とした頭で、なんとなく恥ずかしいかもって思うけど、すでにみんなも裸だし。私は香菜に、胡座をかく健介さんに向かい合う形で抱きつくよう促された。
「なんだ、しっかり濡れてんじゃん」
股の間に香菜の手。真っ正面に私を見詰める健介さん。
「んー、この辺かな? あとはゆっくり腰を前にずらしてって」
お尻の辺りで香奈の手が動き、迷える健介さんを私の中へといざなう。腰を落とすごとに、彼が少しずつ入って来る。
「んっ、やっ……こんな、みんなが見てる前で……」
「気にすんなって。そんな恥ずかしいんなら彌久、目、瞑ってな」
言われた通りにしたら唇を塞がれ、でも私は彼にしがみつくのが精一杯。なのにみんなは平然と再びお酒を飲み始めた。健介さんも繋がってる私の背中を抱きかかえながら右上の辺り、左手で取り出した煙草に火を点けた。私一人が快楽の波に呑み込まれてゆく。
「今度さ、ダーツとか行こうぜ」
「あ、行きたーい」
イキそう。だけど、こんな時に一人イッちゃうなんて恥ずかしくて、だから我慢する。けど、繋がったままの健介さんが笑うだけでその振動が身体中に響き渡り、今、どこかを変に刺激されただけで、おかしくなっちゃいそう。
「じゃぁ四人でダーツ大会な。ちゃんと広くて飲める店とか知ってっからさ」
ヤバい。髪の毛触られてる。
「ん? どうした、彌久」
力一杯しがみ付いて、潤ませた目で見つめ上げて訴えてるのに。なのに健介さんは非情にも私の耳を指で摘んで……。
「んんーっ…………!」
止まらない痙攣。溢れ出して健介さんの股間を濡らす。
「あれ? こいつ、もうイッちまった?」
「え? なになに、マジでー?」
「お、本当だ、ずげービクビクいってる」
我慢していた全ての物が解き放たれた。私はただ健介さんの鎖骨に顔を押し付けながらその体にしがみついて、押し寄せる波に打ちひしがれるばかり。
「おいおい俺まだ全然、腰動かしてねぇぞ……おほっ、締め付けてる締め付けてる」
「彌久ちゃん、イク時はちゃんとイクって言わねぇと」
慎治さんに背中を指で突つかれた。それだけで一番感じる所を刺激されたみたいに跳ね上がる。体が、おかしくなってる。
「うわぁ、スゲー事になってら。慎治、悪りぃ、座布団びしゃびしゃにしちまった」
「いいっていいって」
見上げれば霞んだ視界に健介さんの悪戯っぽい笑顔。私は彼を見詰め、すがるような思いで首を横に振る。
「だめ……健介さん……お願い、動かない……でっっ」
一転、彼の目は悪戯。
「聞こえねーなぁ。動かして欲しいの?」
「やっ……だ、だめっ」
健介さんは激しく腰を突き上げ始め、私はずっと昇りつめたまま。裂きイカの袋で背筋をなぞる慎治さん。香菜の笑い声。
「だめぇぇぇぇぇっ!」
「キャハハハッ」
私の叫びとみんなの笑い声が重なり合った。全身の力が一気に抜けて、私はそのまま仰け反る。そして後ろへと倒れ込む一歩手前で、背中に暖かく柔らかい感触。香奈だ。私の大好きな香奈。背中から強く抱き締めてくれる。
「あーもう、ほら、抜けちゃたじゃん」
でも、幸せな気持ちも束の間、それはただの拘束だと知った。蛍光灯の眩しさでシルエットとなった健介さんに足首を持たれ、左右に大きく広げられて……。
「手、どけて」
首を横に振る。健介さんの顔と私の大事な所を隔てる手。
「しょうがねぇな。慎治、ガムテかなんかねえ?」
「おう、縛っちまうんだな?」
布を引き裂くような音に、ビクリと肩を竦めた。前を隠す私の手は香奈に捕えられる。
「ねぇねぇ、足も一緒に縛っちゃおうよ。慎治、手伝って」
健介さんの手で膝を折り曲げられて、ちょうど膝を抱えるような格好にされると、その足首に私の腕を持って行く香奈。ガムテープを用意する慎治さん。三人掛かりで私の関節を自由に操る。
ジッ……ジーッ
左右それぞれの足首と腕を、ガムテープでぐるぐる巻きにされ固定された。
「こんなに巻いて剥がす時痛くねぇかな」
「大丈夫だよ。無駄毛も抜けるし丁度いいんじゃなーい?」
どんどんとガムテープを巻かれてゆく私。右足から背中を廻って左足へ。
「ほら、動かないでよ」
こんな、カエルみたいな格好じゃ、大事な所が丸見えに……。
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