相田医師は病院のすぐ近くのマンションに住んでいた。最上階エレベーターが到着すると美咲は少し緊張していた。
「大丈夫、君の話を聞くだけだから」うながされ美咲は玄関に入った。あまり装飾品の無い壁、リビングにはソファーとテレビがあるだけだった。
「何飲む?」
「あの、母に連絡してもいいですか」
「ああ、お泊りしますって正直に言える?」
「えっ?泊まるんですか?」
「ああ、朝までかかるんじゃない、耳元で名前を囁かれただけで涙が出るほど積もる話があるんだろうから」
「もう言わないでください、恥ずかしい」美咲は母に電話を入れた
「お手製の梅酒のロックだけど」相田医師は二つのグラスとつまみのナッツをテーブルの上に置いた
「さあ、話してごらん、美咲」耳元で囁く相田医師。
「はい」口唇を噛み締めた後、グラスに口をつけ、一口飲むと美咲は口を開いた
「ノン先生」
「先生はいいよ、ノンで」
「はい」
「それから敬語は使わないでいいよ」
「うん、あのね、わたし、15歳の時に大好きな男の子がいたの」
「中学の時?」相田医師もグラスに口をつけた。すぐ隣で美咲を見つめる
「そう、中学3年の時、わたしは4月生まれで、その男の子は3月生まれで、弟みたいで可愛がってたの」
「へえ~、男嫌いの美咲の初恋の話かな」
「そう、その男の子とは近所に住んでたんだけど、小学生の頃、同じ空手道場に通っててそれで意識するようになって」
「へえ、美咲は空手をやってたんだ、あまり怒らせないようにしないとね」
「昔のことだから、でもヘッドギアとグローブつけて組手をしたりしたんだけど、その男の子は一度もわたしに勝てなかったの」
「へえ~、だから弟みたいに可愛がってたわけ」相田医師の笑顔はとても魅力的だと美咲は思った
「そうかも、でもね、一番気になったのは中学に入ったばかりの頃その子急に元気が無くなって、どうしたのって聞いたら、叔母さんが結婚したって言って」
「叔母さんを女性として意識してたのかな」
「そうみたい、お姉ちゃんって呼んで、小学校5年生まで一緒にお風呂に入ってたんだって」
「5年生っていったら女性の裸を見たら興奮するだろう」
「そうなのかな、今、弟が3年生だから、もうすぐお風呂一緒に入ってくれなくなるのかな」
「寂しいの、入ってくれなくなると」
「うん、我が家のアイドルみたいな存在なの。疲れて帰るといつも笑顔でお帰りって言ってくれて、その笑顔を見ると疲れが吹っ飛んじゃって、ギューって抱きしめちゃうの」
「それって、世の中で言う、ショタコンっていうやつじゃない」
「それだけじゃないの」
「それだけじゃないって?」美咲はグラスを空けた。覚悟を決めると相田医師の目を見つめて言った
「似てきてるの、だんだん、初恋の男の子、ノンに」
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