で、で、で・・・・。
『電気、消して下さい。』
ドラマ、漫画、その他諸々で定番の一言が口に出来ない。
察してくれたのかは定かではないが、彼がベッドの枕元にあるボタンを押すと部屋が暗くなり始めた。
助かった・・。
・・え?
確かに暗くはなった。
先刻よりは。
だが間接照明に照らされたラブホの室内は、互いの表情がはっきりと分かる程度には明るい。
ごろり
ベッドの上、不意に彼が仰向けに寝転がる。
しかもベッドのド真ん中だ。
あたしは戸惑っていた。
固唾を呑んで硬直したあたしに彼が声を掛ける。
「こっち、おいで。」
そう言いながら彼は、両手を広げ気味にしてあたしに向かって差し出してくる。
おずおずと、あたしはそれ以外の表現のしようがない所作で腰を浮かしながら身体の向きを変えた。
が、次の瞬間、あたしの身体は固まる。
「痛っ!」
・・脚、痺れた・・。
無様なこと、この上ない。
慣れない正座により痺れを切らせたあたしは、膝で這うように四つん這いで彼に近づき、その両手の範囲に突入。
そんなあたしを彼の両手が優しく抱き寄せる。
結果、仰向けに寝そべった彼に覆い被さるようにして抱き締められたあたし。
彼の肩の辺りにあたしの顔が触れていた。
ボディーシャンプーの匂いがする。
今、あたし達は同じ匂いがするのだろうか。
「!」
頭を撫でられていた。
まるで小さい子をあやすかのように。
優しく。
何度も。
・・気持ちいい・・。
あたしの身体から力が抜けていくのが自分でも分かる。
いつの間にか彼の上で脱力したあたしの脳裏に過ぎる想い。
「・・重くない・・ですか・・?」
「全然、大丈夫。」
・・でも、重いだろうな・・。
頭を撫でているのとは反対の手があたしの肩に触れた。
触れた手は浴衣の上から優しく肩を撫で始める。
頭と肩、その両方を慰撫するように撫でられながら、あたしは陶然としていた。
頭を撫でていた彼の手、その指がツムジに触れた。
ゆっくりと・・小さく円を描くように彼の指先がツムジを撫でる。
あ。
くすぐったい・・のとは少し違う・・。
・・何、これ・・?
温かい『何か』がツムジから注がれているようだった。
『何か』がツムジを経て背骨から尾槌骨を満たすような感覚。
何だか分からない『何か』があたしを煽る。
思い出した。
小さい頃、両親や祖父母の膝の上で感じた『何か』。
安心感?幸福感?
ごくり
あたしは思わず唾を呑む。
と、ポツリと彼が言った。
「ごくり。」
「え?」
「ツバ、呑んだでしょ?」
くつくつと笑いながら彼は言う。
恥ずかしさのあまり、あたしは無言で彼の肩に顔を押し付ける。
・・つまり・・
・・抱きついちゃったんです・・。
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