初めて彼に抱かれた日から数えて最初の組織改正。
幸いなことに彼とあたしの関係に影響は無かった。
今回は、ね・・。
でも次は分からない。
あたし達に永遠に続くものなんて無い。
だが、あの夜以来、あたし達の関係は、少しずつ変わり始める。
勿論、日々の生活は変わらない。
表面的には、だけどね・・・。
今まで通り、あたしが月に何度か彼の家を訪ねては、エッチなことをする。
少しずつ。
ほんの少しずつだけれど、別れを前提とした関係性になっていく。
『親離れ子離れ』の準備、みたいな。
或いはお年寄りが断捨離しながら終活してる、みたいな。
「いいじゃん。準備不足でも。」
軽っ!マジっすか?
「・・いい・・のか、な・・。」
彼は準備不足のまま、その日を迎えても構わないのではないかと言った。
何の心構えも無いまま、その日を迎えるのに比べれば雲泥の差なのではないか、と。
「それに、さ・・・」
親離れ、或いは子離れしたからと言って親子だという関係は決して終わらない。
だったら、そういう関係もあって良いのかもしれない。
「そうかも・・ね・・。」
ん?
ちょっと待って。
あたしを『都合のいい存在』としてキープしようとしてませんか?
「いひひひひ。」
意味不明の笑いで言葉を濁す彼。
・・全く。
油断も隙もありゃしない。
だが、だ。
確実にあたし達の関係性は変わっていく。
彼は今まで敢えて触れなかった奥さんと子供のことを話題に上げるようになってきた。
最初のうちは戸惑っていた、、時には硬直することもあったが、、あたしも自然に話が出来るようになっていく。
どうやら夫婦には、他人であるが故の良さと悪さがあるらしい。
親子関係にしても男親から、或いは女親からの子供に対する見方や接し方にも色々あるらしい。
ふむ。人生、色々っつーことね。
・・深い。
そういえばショッキングな出来事っつーか。
お知らせがあったのですよ。
「気を付けろよ・・。」
「は?何が?何に?」
「エロテク、凄いことになってるからな。」
笑いながら彼は言った。
は?
えろてく・・って?
えろてく、即ち・・エロいテクニック。
「普通の男ならドン引きするか、病み付きになるかの両極端な反応するぞ。」
ば、ば、ば、バカヤロー!
お、お、お前が仕込んだんじゃー!
あたしは生まれて初めて人を殴った。
グーでパンチ。
しかも顔面に。
ヒット、っていうか掠った。
『ぺちっ』っていう間の抜けた音がした。
彼は吹っ飛んだメガネを拾いながら笑う。
き、気をつけなきゃ・・だわ・・。
遊んでる、とか思われちゃう・・。
「でも、まぁ・・変わったよな。」
そう、あたしは変わった。
良くも悪くも。
いや、エロテクではなく、ですよ。
今までは孤立気味ではあっても協調第一、可能な限り目立たぬように、が信条だったあたしは、自分を曲げないようになっていく。
彼の影響なのは間違いない。
その証拠に周囲の陰口が増えていく。
しかも、その内容がアレだ。
プチ◯◯、チビ◯◯呼ばわりをされているらしい。
あ、◯◯の部分には彼の苗字が入ります。
いいもんね。
あたしゃ好きに生きるんだい。
念の為言っときますけど、彼ほど大胆には生きてませんからね。
今期の組織改正は乗り切った。
だが来期を、再来期を乗り切れる保証は全く無い。
だから準備を進めるのだ。
着実に。
んで彼より、いい男を見つけたら、だ。
培ったエロテクで振り向かせて彼に自慢してやろーっと。
彼を・・結婚式には呼べないもんね・・。
完結
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