きっかけは・・何だったのだろう。
今でも想い出せない。
週末の夜。
仕事で遅くなったあたしを、、終バスを逃したのだ、、単身赴任中の彼が、駅まで車で送ってくれた時だったのは確かだ。
でも何故、あんなことを口走ってしまったのかは分からない。
会話が途切れた瞬間、車内の沈黙に耐えかねたのかもしれない。
「あ、あたし・・経験が無いんです・・。」
「は?」
訝しむようなリアクションを返す彼は、運転中ということもあり、前方を見据えたままだ。
あたしの発言をあまり真剣に捉えていないように見えたからか、あたしは言葉を紡ぐ。
間も無く三十歳。
未だ処女。
「あたしとじゃ・・イヤ・・ですよね?」
頬が、いや、全身が火照っていた。
暗い車内、あたしも彼も前方に視線を据えたままだ。
・・言っちゃった。
・・何で・・
・・何で言っちゃったんだろ・・。
あたしは唐突に会社を辞める決心をする。
学生の時みたいに気詰まりな関係になるのは真っ平だ。
耐えられない。
たが次の瞬間であった。
「いいよ。何処でする?」
「は?」
想定外の回答に取り乱すあたし。
『何処』の意味が分からない。
何よりも申し出を受け入れてくれた理由が全く分からない。
「俺の部屋?それともホテル?」
「ど、ど、どっち・・でも・・。」
パニックに陥ったあたしは、ゴニョゴニョ言うだけでマトモな返答が返せない。
・・お金・・持ってたっけ?
・・それとも、彼が負担?
・・それも申し訳ない・・。
「お、お、おウチ・・いいでふか・・?」
『いいでふか?』じゃねー。
噛んだ。
吃った上に噛み噛みだ。
カッコ悪い、悪過ぎる。
しかも、だ。
・・また、失敗したら・・
・・ヘコむ、な。
いや、落ち込むどころではない。
最悪のシミュレーションだけが頭の中を駆け巡る。
失敗したら一生、処女でいよう、そう決心した次の瞬間であった。
「別にウチでもいいんだけど・・」
シャンプーしか無い。
リンスもトリートメントも無い。
ドライヤーも無い。
クレンジングクリームも無い。
「それでもいい?」
むむ。
そら、そーだ。
単身赴任中の男性独り暮らしだしな。
「じゃ、じゃ、ホテル・・お願いしまふ。」
また・・噛んだ。
落ち着け、あたし。
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