二週間前に果たしたロストバージン。
朝帰りもした。
一緒に朝食も食べた。
額にだけど軽くキスもして貰った。
個人携帯、ゲット。
彼の住まいを訪問。
たった二週間の出来事ですぜ?
色恋沙汰に縁のない人生を歩んできたのだ。
あたしにしちゃぁ上出来でないかい?
だが良い事ばかりは続かない。
そもそも・・不倫なんだもん。
だからこそ・・やり残したことは無いようにしておきたかった。
気になる異性と手を繋いで歩いてみたい。
心残りは、それだけであった。
ちらり
一瞬だけ隣を歩くあたしに視線を向けた彼は、ズボンのポケットに突っ込んでいた左手を差し出してくれた。
あたしは自分の右手を服に擦すり付けるようにして手の汗を拭く。
ぎゅっ
か、顔が緩む・・。
頬が火照る・・。
は、恥ずかしい・・。
だが、あたしの心は踊る。
もう想い残すことはない。
残りの人生、この二週間の記憶を噛み締めて生きていける。
そう想っていた・・・。
駅に着くまでは・・・。
駅のホームまで送ってくれた彼。
繋いでいた互いの手は改札を通る時には離れていた。
瞳がウルウルしていた。
後日、その時のあたしを評した彼の言葉。
『捨てられた仔犬みたいな眼』
・・うるせぇな。
・・それくらい切なかったんだってば。
ホームに着いた電車のドアが開く。
「じゃな。」
「はい。有難う御座いました。」
『じゃな』か・・。
『またな。』・・じゃないんだ・・。
顔が歪んでいるのが分かる。
たいした造作の顔じゃないのは承知だ。
ならば、せめて普通の表情で別れたい。
だが努力すれば、するほど顔が歪む。
せめて彼の前で泣き出さないように。
電車が走り出した瞬間とあたしが泣き始めたのは、ほぼ同時だった。
電車の中、彼に背を向けたまま泣き出したあたしを乗せた電車は走っていく。
ひぐっふぐっ・・ぐぶっ・・・
疎らとはいえゼロではない乗客の視線。
彼ら彼女らの好奇の視線に晒されたまま嗚咽を堪えるあたし。
誰が見たって三十路間近にして失恋した女以外のナニモノでもない。
その時だった。
ぴょろりろりん・・
スマホが震え、奇妙なサウンドエフェクトが漏れ聞こえた。
メールの着信、彼からだ。
何故かオジサン達はSNSを敬遠してメールオンリー。
便利なのに・・な。
>大丈夫?
・・大丈夫じゃねーよ。
大号泣寸前だよ・・。
>また、あの店で何か喰わすから。
>元気出せよ。
・・え?
あたしは慌てて返信する。
>また遊びに行っていいですか?
・・・・・・・・マジか。
暫しの間を置いて彼から返信があった。
>事前に連絡さえくれれば、どうぞ。
>布団は一組しかないけどな。
つまり・・彼の都合も考えた上であれば、エッチも込みで会ってくれると?
ぶわっ
涙腺が破裂するかと思いました。
まさに大号泣するあたし。
涙で霞んで何も見えない。
動画を撮られてアップロードされなかったから良かったけどさ・・。
・・あれはヤバかった。
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