「ご馳走さまです。」
ぺこり
もぉちょっと・・スマートに
・・出来ないもんかね、あたしってば。
だが、あたしは焦っていた。
レバニラは食った。
美味かった。
用事は終わった。
『じゃあな。』
『はい、また。』
・・・ち、違う・・・。
そぉじゃない・・。
・・一緒に・・いたいんだよ・・。
カラダ目当てで構わない。
都合のいい女で充分だ。
ヤリ逃げでいい。
ヤッてくれなくても構わない。
・・そんな価値があるとは思ってないし。
隣で体温・・感じていたいんです。
だだ、それだけだ。
・・切ねぇ・・な・・。
あたしは勇気を振り絞る。
「社宅って近いんですか?」
「ん?歩いて十分くらい。」
「見に行ってもいいですか?」
「え。いいけど。」
明らかに警戒している。
大丈夫、取って喰やしないよ。
他愛も無い話をしながら、されど互いに核心に触れないような会話をしつつ歩くあたし達。
がちゃり
「どぞ。」
「お邪魔しま・・す・・。」
必要最低限の家具が配置された男の独り暮らしだ。
一言で言えば殺風景かつ無造作だ。
ベランダには、洗濯物と布団カバーが干され、先に取り込まれたのだろうか、床の上には布団が乱雑に放置されている。
「二部屋あるといいですよねー。」
「うん。便利は便利だよ。」
こっちが寝室、こっちはリビング。
で、ここがダイニング兼キッチン。
「何か作ったりするんですか?」
「いや、やらねぇなぁ・・」
一人分だけ作るのはコスト的にも手間的にも合理的ではない。
結果的には出来合いのお惣菜か外食になってしまうとか。
さもありなん。
独り暮らしの食生活に関する意見を共有するあたし達。
「あ、一応言っときますけど・・」
自炊をしないだけで出来ないわけじゃないから。
そこはアピールしとかなきゃね。
彼は半信半疑の表情を浮かべていたけれど。
そしてあたしも自信は無いけれど。
「ベランダ、見せてもらっていいですか?」
住宅街の一角を占めるマンションの一室。
その三階の2DK。
お世辞にも眺望は良くないが、プライバシーは充分に保てそうだ。
ベランダに差す日差しが傾き始める。
そろそろ・・帰ります・・ね・・。
今日は有難う御座いました。
「駅まで送るよ。」
居坐わるかと思っていたのだろうか。
やや意外、かつ安心したような彼の申し出を有り難く受けたあたしは、車を出そうとする彼を押し留める。
ひょっしたら彼と並んで歩けるのは最後かもしれないのだ。
ほんの僅かではあっても、一緒に居る時間を伸ばしたかった。
並んで歩き出したあたし達。
陽が落ちる速度は速く、既に黄昏時に近くなっている。
「・・手、繋ぐの・・ダメでふ、か?」
また噛んだ。
油断禁物ってことだな。
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