「もしもし・・もしもし?」
え、誰、、何なの・・?
・・あたしゃ眠いんだけど・・。
「朝だぞ。チェックアウトしなきゃ。」
・・チェック・・アウト・・?
ホテルじゃねーんだから・・
え?いや、ホテルだ・・。
ホテル?
いきなり眼が覚めた。
アドレナリンがドバドバと出ていた。
混濁した記憶が順不同で蘇る。
がばっ
ベッドの上、反射的に上半身を起こす。
あたしの口元からはヨダレが糸を曳く。
「ヨダレ、裸・・。」
・・分かってます・・よ。
失礼な指摘は要らないっす・・ん?
裸・・?
きゃあぁぁぁ・・は、は、裸・・だ。
真っ裸・・だ・・。
慌ててシーツを掻き寄せて躯を隠すあたし。
既に浴衣を羽織った彼は、興味深そうにあたしを見詰めていた。
ズルい・・。
自分ばっかり・・あたしの浴衣・・は?
辺りを見回すが見当たらない。
察したのだろうか。
彼は言いにくそうに言葉を選ぶ。
「浴衣・・ダメだわ・・。」
「え?」
「・・ぐしょぐしょ。」
ぐしょぐしょ?
何で?
暫し躊躇った彼は、物陰に丸めて置いてあった浴衣を差し出してきた。
手に取ったあたしは得心する。
ずっしり・・確かにぐしょぐしょ、だ。
・・・でも何で?
途端に鼻腔をくすぐる牝の匂い。
しかも濃厚かつ濃密だ。
あ。え。
これ・・あたし、の・・?
悄然とするあたし。
いわゆるションボリ、だ。
昨夜は・・あんなに幸せだったのに。
「・・ダメダメですよ・・ね。」
泣きそうだ。
いや、泣く。
あたしは数秒後に泣き出すに違いない。
・・ウゼぇ・・。
・・ダセぇ・・。
・・こんなコ、さぞかし・・
・・面倒くさいでしょう・・よ。
だが彼のリアクションは、あたしの想像を遥かに超えていた。
隣に腰を下ろした彼は、いとも無造作に手を伸ばす。
伸ばした先は・・あたしの脇腹だった。
ぎゃお!
あたしは彼に・・脇腹の肉を鷲掴みにされていた。
いきなりの攻撃に翻弄されるあたし。
くすぐったいよ・・。
・・酷いよ、気にしてるのに・・。
有難う・・。笑い話にしてくれて・・。
泣き笑い、、泣きが三割、笑いが七割、、するあたしに向かって彼はコトも無げに呟いた。
「まぁ、ここの肉は落としてみようや。」
そうすれば・・
・・イケてるぞ。
・・多分、ね。
変な顔になっているのは分かっていた。
ブサイク以前の顔だ。
『可愛くない』なんて話、以前だ。
顔を歪め、必死で涙を堪えていた。
・・泣いたら嫌われる。
そう思ったら泣けなかった。
・・好きになっちゃダメなんだ。
・・だけど・・・だけど・・。
ふブぶぶ・・ぐぶ・・う、ゥ・・
・・泣いてねーからな・・。
絶対ぇ・・泣いてねぇ・・。
でも誰が見ても・・あたしはその時、泣いていたと言うに違いなかった。
※元投稿はこちら >>