「申し訳ない、ほんとうに申し訳なかった」私は砂浜にひれ伏した。とめどなく涙が流れだした。私は額を砂に擦り付け、32歳の姫乃樹舞香に謝罪の言葉を繰り返した。
「どうしたんですか、敬之さん、そんなことしないで、母と何があったんですか」
「私が君のお母さんを不幸にしてしまったのかもしれない」顔を上げた私の頬の涙を舞香はハンカチで拭ってくれた。
「そこに座りましょう」乾いた砂の上に私と舞香は腰掛けた。波の音と潮の香り、そして月明かりに包まれていた。
「母が亡くなった翌年ウイルスの脅威も治まったころ、母が安置されているお寺から連絡があったんです。そして遺骨の一部を引き取りに行きました。その時遺品として預かった物の中からこの写真が見つかったんです」月明かりに照らされた写真には美しい真紀子と彼女の胸に抱かれ眠る舞香、そして18歳の頃の私が満面に笑みを浮かべて写っていた
「お母さんと君と私だね、初めて公園でデートした時の写真だよ」私の頬を再び涙が流れた。
「泣かないでください、母はあなたを大切な思い出として亡くなる寸前までこの写真を握っていたそうです。それを見つけた看護師さんが、消毒をして保管してくれたそうです。そして住職さんに必ず遺族に届けてほしいと頼んだそうです。裏にメモがあります」
私は裏のメモを読んだ。「楽しかった公園デート、舞香と敬之君」それを読んだ瞬間、私は声を出して泣いた。
私が落ち着くのを待って舞香は言った
「母のこと、どんなことでもいいので聞かせてください、ここではなんですから、ホテルにでも行きましょう」私は舞香の言葉にしたがった。足に着いた砂をはらい、靴を履いた。車を走らせ、5階建てのホテルに車を停めた。そこは30年前、真紀子と舞香と訪れたホテルだった。だが今はラブホテルに改装されていた。フロントのパネルで504号室を選んだ。無言のままの私を気遣うように舞香が腕を組んできた。
「大丈夫ですか?」エレベーターに乗ると彼女が尋ねた。
「ああ、君がいてくれるから」504号室に入ると手前にガラス張りのバスルーム、奥に大きなベッドがあった。そしてその奥に分厚いカーテンがかかった窓があった。窓を開けると夜の海が一望出来た。
「素敵な眺めですね」私は舞香を後ろから抱きしめた
「30年前、君と、お母さん、そして私は一緒にこの夜景を眺めたんだよ」30年前の記憶が鮮明に蘇ってきた…
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