夕方、家に戻ると息子たちが待ってましたとばかりに飛び出してきた
「パパ、ステーキ屋さん予約しといたよ」まさとが言った
「おお、サンキュー」
「早く、行こうよ、僕おなかすた~」ひろきが言った
「お父さん、わたしが運転するから、ビール飲んでいいですよ」妻も仕度はすんでいるようだ
「おお、悪いな」
ステーキ店は満員だった。常連の私たちは奥の予約席に通された。息子たちは300g妻と私は150gのステーキを注文した。ライスは息子たちの分はスペシャル大盛だった。常連の私たちへの店長のサービスだ。ビールを飲みながら私は息子たちの見事な食べっぷりを見ていた
「パパ食べないの」まさとが私が3分の1残しているのを見て言った
「ああ、食べていいよ」
「やった~」無邪気な息子たちは可愛い。妻を見ると妻も楽しそうだ。ひろきが妻にじゃれついている。この店での楽しい食事がありふれた日常だった。だが、まさとの言葉でそれは一瞬にして崩れた
「きょうこ…」まさとはステーキを皿の上にポトリと落とした。私はまさとの視線の先を見た。そこには、きょうこが歩いていた。
「まさと」私たち家族に気づいたきょうこは微笑み、小さく手を振った。可愛らしい笑顔は天使のようだが、私には小悪魔にしか思えてならない。通路を挟んだ隣の席にきょうこの家族は座った。奥に私と同じくらいの年齢の男性、その正面に年配のぽっちゃりの女性が座り、書の横にきょうこが座った。きょうこが私とまさとと視線が合う位置だ。きょうこの目には30歳前後の女性が2歳くらいの男の子を連れていた。
「きょうこちゃん、こんばんは」妻がきょうこに声をかけた
「こんばんは」きょうこは笑顔で妻に挨拶した。その脇の年配の女性も軽く会釈をした。すると私の脇に座るまさとに気づいた
「ああ、まさと君、久しぶり~」元気な声で言った60代後半のようだ
「ママ、声大きい」きょうこがその女性に言った。「ママ」つまりきょうこの話にあった50歳で彼女を出産した女性なのか…
「こんばんは」まさとがぎこちなくその女性に挨拶した
「由実、とりあえず注文しようよ」男性の声が微かに聞こえた
「はい、あなた」年配の女性の声がした。つまり男性がきょうこの言っていた「本当のパパ」と言うことか…
店員が隣の席のオーダーを取り終えた。別の店員が私たちの席のステーキ皿を下げている間、きょうこが本当のパパと何か話をしてた。店員が去ると隣の席の男が立ち上がり、私たちの席に来た
「失礼します、村松きょうこの父親です。君がまさと君かな」その男は私の奥に座るまさとに声をかけた
「はい、そうです」まさとが緊張気味に答えた
「きょうこが仲良くしてもらっているようで、よろしくね」男は手を差し出した。まさとはその男と握手した
「これはどうも、まさとの父です、それと妻、そしてまさとの弟です」
「お父さんですか、よろしくお願いします。え~と、奥がきょうこの母親で手前にいるのが、きょうこの姉、そして甥っ子です」
「よろしくお願いします」妻も立ち上がり挨拶した。妻も緊張ぎみのようだ。店員が私たちのテーブルにデザートを運んできた
「それでは失礼します」男は席に戻った。きょうこは笑顔で小さく手を振っている。それがまさとへのものなのか、私へのものなのかわからなかった…
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