【宇野一也と一色雄大】
宇野春彦と一色花は双子の兄弟を授かった。兄は宇野一也、弟は宇野雄大。二人は物心着く頃には、父、春彦のギャンブル癖と母、花に対する暴力を目の当たりにしていた。
転機が訪れたのは双子が小学校に入学した頃だった。弟の雄大は健康に育ったが、兄の一也は重度の喘息を煩い、小学校に行くことが出来なかった。一也を可哀想と思った母は、できるだけそばにいてあげようとした。ギャンブル癖で家に帰っては暴力を振るう父の下でも、なんとか愛情を施そうと努力していたのだ。その努力は遂に実り、一也が最高学年になる歳に喘息の症状が軽くなったのだ。それから母は一生懸命になって、一也に勉強を教え、一年間で小学生が習う教科を網羅させた。
そして、二回目の転機が訪れた。ついに母、花は離婚を決心したのだ。これまでDVに苦しめられ、子供にもこれ以上悪影響を与えないようにするためには、これ以外の方法はなかった。夫にその話をしたとき、以外にも素直に受け入れた。だが、一つだけ条件を出してきた。それは、兄、一也の親権を父、春彦のものとすることだった。花は当然反対したが、一也はそれでいいと言ったのだ。
結果的に、一也の親権は父が、雄大の親権は母が持つこととなり、双子は宇野一也、一色雄大となった。
父、春彦が一也の親権をなぜ欲しがったのか。それは一也の隠れた才能に気づいていたからだ。一也には、春彦の遺伝子が強く遺伝していた。そして、一度学んだものをすぐ理解する力は母譲りだった。こいつを使わない手はないと感じた春彦は、花の目を盗んでは一也に洗脳を施した。つい最近まで重度の喘息で動けなかった子供。その子供が信じるものといえば父や母の言葉だ。発育の遅れた一也は、学校の勉強と父の洗脳のみを受け入れ成長していったのだ。
中学になった一也と雄大は同じ学校にいるものの、名字が違い、さらにこれまで一也に付きっきりだった母は雄大を甘やかした。その結果、雄大は母が出す食事を沢山食べ、みるみるうちに肥満児となった。離婚した母からすれば、一也と雄大を仲良くさせたいが、必要以上の触れ合いは子供たちが再婚を願うかもしれない。そう考えた母、花は一也には必要以上に近づかないよう、雄大に言い聞かせた。
同級生を妊娠させた一也は、学校側が混乱を避けるために、表向きは父の転勤とした事由で処理した。だが実際のところ、父、春彦の思い描いた通りの成長を遂げた一也に満足したため、県外の学校へと移させ、そこで同じことを繰り返させた。より狡猾に、より欲望に従順にさせるためである。
そして、遂に3回目の転機が訪れた。一也が高校卒業間近、父が死んだのだ。朝まで酒を飲み、泥酔したまま道路に飛び出し車に轢かれた。保険に入っていなかった父だが、相手側も運転不注意ということで、一也にもいくらかお金が入った。だが、春彦に多額の借金があることが判明し、事故で支払われたお金は、全て借金返済へと使われた。残ったお金はほんの少し。高校さえ卒業出来るかどうかだったが、一也の才能はすでに開花していた。自分の容姿や頭のキレを最大限活かし、金をかき集め卒業までこぎ着けたのだ。
父が居なくなった一也は、父の姿をみていたため、ギャンブルには手を出さなかった。変わりに、性欲を抑えることが出来なかった。そこで、お金を支払わせて性行為することを考えたのだった。狙い目は自分に自信がなく、あまり男女交際したことのない女性。初めはお金がかからないナンパから始めたが、すぐに成果がでた。多いときで一度に数万円を手に入れられた。そして、住所をもたず転々としながら、その土地で満足したら次の土地に移る。そんなことを繰り返し二年が経った頃、ある女性と出会った。
大学に通うその女性とは、大学構内で見つけた。それっぽく振る舞えば、IDが必要な場所以外なら講義さえ受けられたからだ。大学生だと、お金を払ってでも処女を卒業したい、バレずにしたいと思う女性がいるため、そこに目をつけた。その女性は彼氏がいるからと、初めは躊躇っていたが、次第に流され、遂にはお金を払わせて処女を奪った。そこでセックスの快感に目覚めた彼女は、彼氏と別れセックスにのめり込んでいった。
俺は中々折れなかった原因である彼氏は、一体どんな顔なのか見てみたくなり、最後にその女性に彼氏の容姿を聞いた。そしてその男を見に行くと、そこには長い間忘れていた、一色雄大の姿があった。
一也は腹を抱えて笑った。何の巡り合わせか、弟だった奴の女の処女を奪ったのだから。そして、恐ろしい計画を建てた。一也が雄大に成り代わる計画だ。
しかし、すぐには計画を実行できなかった。整形のための資金や、雄大を追い詰める精神的な攻撃をどうするか。また時期も肝心だと考え、就職と同時に成り代わる計画を進めた。
結果として、計画は成功した。宇野一也は人知れずこの世から消えた。また、元の一色雄大も人知れず行方不明となり、その変わりに一也が雄大となったのだ。
そこからは、一色雄大として仕事をし、母の愛情を受け、一人の社会人として、生活を営んだ。そして、あの女と再び出会った。今度は一色雄大として。
※元投稿はこちら >>