【藤原みゆき③】
飲み会の翌日。原口からSNSで連絡がきた。内容は飲み会のときの謝罪だった。原口自身も酔った勢いとはいえ、反省していたらしい。女性陣にも連絡をしたらしく、特に気にしていないと連絡がきたそうだ。まぁ、そんなことはなさそうだろうけど。
後味が微妙な終わり方だったが、また飲む機会もあるだろうからと、原口に返信を送ったところで、電話が鳴った。相手は有永だった。
「もしもし、一色くん?」
「うん。有永から電話なんて初めてだよ。」
「私も初めて電話した。あのね、昨日のことなんだけど、ごめんね。」
「なんで有永が謝るの?」
「実は昨日の飲み会、原口くんがみゆきと繋がるきっかけを作るために企画したの。言い出しっぺは私。」
「そうだったの?」
「うん。実は、私と原口くんって、仕事関係でちょくちょく会ってたんだ。それで同窓会の日に久しぶりに会ったみゆきに、原口くん一目惚れしちゃって。原口くん、同窓会の後にその事話してきて、きっと私も昔の友達に会って舞い上がってたんだと思う。じゃあ、適当に少人数で飲み会しようよって言ったの。みゆき呼んで、そこで話せばいいねって。二人でみゆきのこと笑わせるためにどうすれば良いかとか、色々考えたんだけどね。」
「けど、酒飲んでたら、原口が暴走したと。」
「そう。まさかお酒飲んであんな風になるなんて思わなかった。」
「そっか。さっき原口から連絡きたよ。あいつも結構反省してたな。」
「私にもきた。はぁ、、ホントにごめんね。」
「俺は別に大丈夫だよ。」
「あの時お酒こぼしたの、わざとでしょ?」
「ん?あぁ、咄嗟だったから(笑)それに洋服は、洗えば汚れは落ちるし。」
「ごめんね。それで、もう一つ話したいことあって、、」
「何?みゆきのこと?」
「うん、、」
昨日の原口の言葉を思い出していた。(それでさぁ、藤原さんはどうだったの?付き合ってるとき、宇野とヤッ、、)
みゆきが居ないところで、その話をするのはなんだか後ろめたかった。
「俺、飲み会のときも言ったけど、中学の頃の恋愛事情って、ホントに知らないんだよ。それに知ったところで、今さら感あるし。」
「そう、、だよね。じゃあ、これだけ言わせて。私、見てみぬふりしてたの。だけど、みゆきは、、ぐすっ、、」
電話越しに有永が泣いているのは分かった。俺は黙って聞くことにした。
「わたし、、ぐすっ、何もできなかったから、、怖くて、、ぐすっ、みゆきはわたしなんかより強くて、、優しいの、、」
そこで一度音が聞こえなくなった。数秒して、息を吹き掛けたからか、音が割れて聞こえ、呼吸を整える音がした。
「ごめんね。はぁ、、」
「有永とみゆきは、今でも仲良しなんだな。」
俺がそう聞くと、震えた声でしかししっかりと答えた。
「うんっ、、これからも。」
「なら良かった。」
「うんっ、、ありがと。急に電話してごめんね。今度は楽しく飲み会しようね。」
「おー。また誘ってくれ。」
そう言って電話は切れた。
中学時代の彼女たちに何があったかはわからない。ただ事ではないとはわかっていながらも、考えるのはやめにしようと思った。その矢先、また電話が鳴った。そこには、【みゆき】の文字があった。
「もしもし。」
「もしもし、ゆうた?元気?」
「おー、元気だよ。電話とか初めてじゃん」
「うん。昨日のこと、ありがとう。気、利かせてくれたんでしょ。」
「わざわざ電話で伝えなくてもいいのに。」
「最初はメッセージだけでもいいかなって思ったけど、なんかちゃんと声に出していいたくて。」
みゆきの声は、少しだけ掠れていた。同窓会で会ったときの柔らかい声とは違う、沈んだ掠れ声。
「そっか。みゆきがいいならそれでいいんじゃない。」
「ふふっ笑 変わらないね、ゆうたは。」
「そうか?じゃあ、貸し1ってことで。」
「うん。いいよ。」
「おっけー。じゃあ、早速貸しを返してもらおっかな。来週の土曜日、空いてる?」
「え?ちょっと待って、、うん。空いてるよ。」
「オッケー。そしたら、午後から開けといて。」
「いいけど、どこ行くの?」
「秘密。当日のお楽しみってことで。場所は新宿駅の南口に13時集合で。あ、動きやすい格好で来てな。」
「わかった。なんか学生みたい」
「ふっふっふっ。楽しみにしてな。」
そう言って電話を切った。俺は早速ノートパソコンの電源をつけ、検索を始めた。
翌週の土曜日。時間より少し早めに到着した俺は予定を確認しつつ、みゆきを待った。
「遅れてごめんー」
そう言って改札からでてきたみゆきは、ストレッチジーンズに無地のシャツという簡素なファッションだが、スタイルの良いみゆきが着ると、こうもおしゃれに見えるのかと驚いた。対して俺も、デニムにシャツの上から薄手のジャケットと同じようなもんだ。
「来たなぁ。そんじゃ行くか。」
「どこに?」
「ここ。」
そういうとスマホの画面を見せた。なんでも謎解きと運動が一緒にできるところらしく、一度行ってみたかったレジャー施設だった。
「へぇー、こんなの新宿にあるんだ。」
「そうなんだよ。一度行ってみたかったんだけど、一人じゃね。てことで、付き合ってもらうぜー。」
「はーい。」
俺とみゆきはレジャー施設へ向かった。
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