【藤原みゆき②】
同窓会から1週間後。SNSでメッセージが届いた。差出人は同級生の有永良美。同窓会いたメンツだ。
「一色くん久しぶり、有永です。今度飲み会するんだけど、一色君も参加しない?少人数でやるつもりで、今のところメンバーは私とみゆき、原口くん。来週の土曜日なんだけど、予定どうかな?」
有永とみゆきは小学校から仲良しで、今でも二人で会って話したり飲んだりしてるらしい。原口とは昔もあまり話したことなかったけど、まぁ大人になったらまた話すことはあるだろう。何より女子から誘われるのは、何歳になっても男としては嬉しいものだ。俺は予定を確認し、行けることが分かるとすぐに参加する旨を連絡した。
飲み会当日。原口が地元の居酒屋に予約を取ってくれていた。夕方だが人は結構入っている。4人席に座るとすぐさま店員が飲み物の注文を聞いてきた。皆ビールを注文し、お通しがでてくると、食べ物の注文をする。冷えきった生ビールがテーブルに置かれると、俺は早速ジョッキに手をかける。しかし誰も何も言わない。何かのタイミングがあるのか、そんな感じで黙ってる。ふと原口のほうを見ると、何か言い出しそうだが、そこで止まってる。
「ちょっと幹事!しっかりして!」
状況を観かねた有永が、原口に向かって言い放つ。どうやらこの企画をしたのは原口らしい。有永から回ってきたから、てっきり有永が企画したものだとばかり思っていた。俺とみゆきは目を合わせて、何が何だかという感じでいたが、さすがに30秒近くも黙られちゃこちらが不安になる。なんとなく察した俺は、幹事に手をさしのべた。
「では幹事、乾杯のコール、お願いします!」
俺はジョッキを持ち中央に出す。有永とみゆきも同じようにすると、原口はちょっと重たそうな空気で
「か、乾杯、、」
と言った。すかさず有永がツッコむ。
「それじゃお通夜。一色くん。仕切り直してっ」
「えっ、、じゃあ、、かんぱぁい!」
飲むときぐらい楽しくと思い一気にかんっかんっかんっ!とジョッキを当て、そこからゴクッ、ゴクッと生ビールを半分飲みほす。
「っかぁぁぁ!このために生きてんなぁ!」
「そうそう!折角の飲み会なんだから、楽しくいこうねっ!」
有永が続いて生ビールを飲み、みゆきも同様に飲む。最後に原口が一口ビールを飲むと、ようやく笑顔が戻る。
「こういう幹事とか初めてで、ごめん。」
「謝ることないだろ。幹事が乾杯の音頭とらないといけないなんて暗黙のルールでもあるのか?」
フォローぎみに言うと有永が噛みつく。
「そうじゃないでしょ、飲み会の一発目だよ?盛り上がらなきゃ、沈むだけだし、めっちゃ考えたのに。」
「考えた?乾杯の音頭を?」
「そう。同窓会の次の日に、原口くんから飲み会しないって連絡があったの。で、私が誰がくるの?って聞いたら、まだ決まってないって。さすがに二人だけじゃ盛り上がらないから、他にも誘おうよって言ったら、頼むって言われちゃって。まぁ、お店探しはすぐしてくれて、助かったけど」
「悪かったって。誰誘っていいか分からなかったんだ。でもここのお店さ、すごく評判いいんだよ。」
そういうと原口は食事アプリのサイトを見せてくれた。確かに星4.6は好評価だ。それからクーポンを使えばかなり金額が抑えられるらしい。幹事として店選びは重要な要素だから、これは参加する側も嬉しい。
「なんだ、ちゃんと幹事の仕事してんじゃん。」
「うん。細かいところちゃんと詰めてくれてありがとね、原口くん。」
俺とみゆきは原口のフォローをした。それを聞いた有永は残りの生ビールを飲みほした。
「てことは、やっぱり有永の人選か。」
「何が?」
「残りのメンバー。有永とみゆきは仲良かったから分かるんだけど、なぜ俺?」
「それは、、私の後ろだったから。」
「ん?」
「一色くんは出席番号2番でしょ。後ろの席に座ってたのが一色くんだから。」
「テキトーだな、おい。」
「もぉ、いいの、この話しは。」
ちょうど良いタイミングで食事がきてくれた。乾杯の音頭以降、原口もペースをとり戻した。大人数でする同窓会とは違い、4人だと少し濃い話もできた。酒が回るとそれは更にヒートアップした。偶然にも4人とも中学が同じだったからか、恋愛事情の話もした。
原口は最初とは打って変わって、滑らかに話していた。
「そういえばぁ、俺どうしても藤原さんに聞きたいことあった!」
「ん?何?」
「藤原さんって中学時代モテたじゃん。結局宇野くんと付き合ったんでしょ。」
「うん。まぁ、すぐ分かれちゃったんだけどね。ホント、3ヶ月くらいかな」
「あー、宇野くんって取っ替え引っ替えだったよね。」
「そうなの?俺、中学の頃の恋愛事情よく知らないんだよな。有永とかは結構カースト的に上位だったから、そこら辺よく知ってそう。」
「そう言えば、一色くんって中学生の頃太ってたよね。同窓会で会ったとき、びっくりしちゃった。」
「もうその話しはいいから。」
「そう?まぁ、宇野くんはね、、」
「ん?」
有永はあまり良い表情をしていなかった。そしてそれは、みゆきも同じだ。俺が太っていたことを触れてほしくないのとは違う、良くない話題だ。
「まぁ、こうして4人で集まって飲めるのも、何かの縁かもな。俺なんかさ、大学で、、」
そう話題を変えようとしたとき、原口が割って入った。
「知ってるぜっ、宇野の話。結構ドロッドロだよなぁ。つか、有永も良く一緒に居たんだからよ。」
「何のこと?」
「決まってんじゃん、孕ませ事件のことだよ。」
「あんた、、」
「それでさぁ、藤原さんはどうだったの?付き合ってるとき、宇野とヤッ、、」
バシャン!と机の上にビールがこぼれた。ほとんど飲みかけだったから、さほどの量はない。
「ごめんっ、酔ってつい手元狂ったわ。」
「もおっ、すみませんー!」
俺は苦笑いで言うと、みゆきは店員さんを呼んでくれた。そこからは有永が世話焼き女房っぽく、俺の服に少し引っ掻けたビールを拭いてくれたり、原口を黙らせるために水を飲ませたりしてた。そんなこんなで席の時間がくると、そこで解散となった。
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