コラージュの件は先生に伝えられなかったのか、その後も先生の授業は続き、先生側には特に変わった様子は見られなかった。
但し変わった様子がないのは先生側だけで、クラスメートの雰囲気は好奇的でどことなくざわつき、僕は責任を感じつつ、好きであるが故に先生に近付き難く、言葉を交わす事に戸惑いを覚える様になった。
事件発生が5月後半。それから6~7月の2ヶ月を先生と言葉を交わす事もなく、クラスでも浮いた存在のまま夏休みに突入する。
僕は学校に居心地の悪さを感じていたので長期休みはホッとするものの、心の中は常に先生への思いで一杯だ。
悶々…モヤモヤ…何と表現して良いのか解らない感情が溢れて胸が苦しく、部屋で一人でいると余計に苦しく塞ぎ込んでしまいゲームも漫画も頭に入ってこない。
部活を辞め、遊ぶ友人もいない僕は気晴らしに駅前の大型商業施設の本屋に出掛けた。
大型商業施設は駅のロータリー内に建っていて、この街では一番多きな施設であり、僕が行き付けていた本屋もこの中にあった。
売り場面積が広く品揃えも豊富で、僕が好きな大人向けの図鑑や実用書、旅行誌なども多数揃っている。
私が実用書コーナーで適当な本を探していると、店の入り口付近に見慣れた人物…僕が恋い焦がれ、一番会いたい人であった。
先生は僕に気が付かず何冊か雑誌を物色して店を出て、見失いたくない一心で僕はその後を遠目に追う。
追ったからと言って何もない。
これじゃあまるでストーカーだ…。
何て声を掛ける?
怪しまれないか?
既に買い物を終えているのか、大きな荷物を抱えた先生はショッピングエリアを抜けてエレベーターホールに立つ。
僕は意を決して先生に声を掛けた。
「先生、買い物?」
「あれ~○○じゃん!こんな所で会うなんて奇遇だね~。○○も買い物?」
先生は言葉を交わしていた頃と何も変わらない様子で明るい笑顔で僕に返す。
「あぁ…まあ…。ところで何階ですか?」
僕は後を着けた事を誤魔化しつつ話を逸らす。
「じゃあ屋上お願い」
屋上は駐車場である。エレベーターはなかなか来ない。
この状況に僕ははっとする。
二人きり…
言葉を伝えられる…
こんなチャンスが早々あるだろうか?
今この時を逃がしたら一生後悔する…。
僕は【告白しよう】と決意を固めた。
相手は教師で大人の女性。ましてや既婚者。
到底叶わない…。
想いを告げる事は謂わば玉砕だ。
エレベーターの扉が開き先生と供に乗り込み、僕は屋上で先生に想いの丈をぶつけた。
「あ…あの…入学式で初めて会った時からずっと先生の事が…本当に…本当に好きでした…」
付き合いたいとは言えず、恋人になってくれとも言えない中で、14歳の僕が精一杯考えた言葉であった。先生は僕の言葉を聞いた後、悲しそうな笑顔を浮かべ、少し考えてから静かな声で言った。
「ありがとう。嬉しいよ。でもごめんね…」
それは僕が想像していた通りの言葉だった。
先生は俯いて更に続ける。
「悪戯のあの写真の件…本気で怒ってくれたんだってね。嬉しかったよ…ありがとう。私の為に喧嘩させちゃってごめんね…」
「こっちこそすいません…」
「ふふ。そうだ。気持ちには応えられないけど交換日記でもしようか?本当はダメなんだけど…」
そう言うと先生は手に持った荷物から買ったばかりの真新しいノートを僕に手渡した。
「じゃあまた新学期にね」
「じゃあまた」
そう言うと先生は立ち去り、僕は屋上で一人、ぽつんと晴れた空を見渡すと、夕暮れが近付く夏の空は群青に染まり、入道雲から離れてできた白い浮き雲が風に流れてゆっくりと形を変えてゆく。
失恋と言えば失恋であったが、不思議と心は軽かった。
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