高校に入学して2カ月が過ぎた頃、新入生クラス別の演劇会が催された。
クラスの団結を高める為の行事らしい。
ガタイがデカく、人付き合いの苦手な俺はクラスでも浮いた存在だった。
勝手に配役されてしまった俺は、台詞は少なかったが渋々練習にも参加していた。
そんな俺は演劇会の当日まで、本番では化粧をしなければならないことを知らなかった。
戸惑う俺の目の前に、いつの間にか板橋が立っていた。
板橋は俺を座らせると、黙ってメイクをしてくれた。
板橋はクラスのマドンナ的存在だった。
新入生の中で一番の美女と噂され、手脚もスラリと伸びやかで160ほどの身長を更に高く感じさせた。
やや細身のスタイルも抜群で、大人びた雰囲気を醸し出していた。
穏やかで優しい、申し分のない女性だった。
俺は何度か会話したことが有るだけで、それほど親しくしていた訳ではない。
その板橋が何も出来ずにオロオロしていたセカイを助けてくれた。
セカイの唇に、その細く華奢な指先で紅を差してくれた。
板橋の頬が薄らとあかく染まっているように見えた。
板橋の指の感触はとても柔らかで、優しかった。
クラスのみんながその光景を驚いた表情で見つめていた。
化粧を終えた板橋が行こうとした時、思わず声をかけていた。
「板橋、、、ありがとう、、、」
振り向いた板橋が微笑んでいた。
「どういたしまして、森島君、、、」
そのさり気ない優しい笑顔に、一瞬にして恋に落ちていた。
同級生の女の子にはまるで興味など持ったこと無かったのに、そのときから板橋のことが頭から離れなくなっていた。
それから板橋との会話が少しずつ増えていった。
そしていつしか、数少ない友人のユズルと板橋の中学時代からの親友のカナを加えて、四人でつるむ機会が増えていった。
元来人付き合いの苦手なセカイだったが、人気者たちに囲まれ、徐々に他の生徒達とも馴染んでいった。
セカイはどんどん板橋に惹かれいく自分を抑えることが出来なかった。
その肩先まで伸びた艶かな黒髪。
そのまるで人形のように整った、それでいて親しみを感じさせる美貌。
特にアーモンドを思わせる優しく、見つめるだけで吸い込まれそうになってしまう瞳にセカイは惹かれてしまう。
外見だけではない、本当に心が清らかな女の子だということをセカイははっきりと見抜いていた。
こんな素晴らしい板橋が自分とつり合うハズがない。
セカイは募る思いを自ら抑え込んでいた。
つづく
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