父は激怒した。
優しい父がこんなに怒るのを初めて見た。
父は母の浮気にもちろん腹を立てていたが、それ以上にアオイにまで手を出していたことに怒りを爆発させた。
表からもそして裏からも手をまわし、話が表ざたにならないようにして、徹底的に男を潰しにかかった。
ひとたまりもなかった。
男の未来は完全になくなった。
アオイは同情すら感じなかった。
あの時、もし浮気の現場に遭遇しなかったら、アオイは間違いなくあの下劣な男に、処女を奪われていた。
危なかった、寒気がした。
いい気味だと思った。
母は泣いて謝った。
父がいつもいなくて寂しかったと。
アオイに手を出すなんて最低だと、思ってもみなかったと言った。
あんな男は絶対に許せない、わたしがバカだった、本当に父とアオイを心から愛している。
もう二度とこんな過ちは犯さない。
お願いだから許して欲しいと涙ながらに訴えた。
結局、父は母を許した。
そして月日は流れ、表面上は穏やかな日常が戻って来たかのように見えた。
でも本当は違っていた。
家族の深淵にはギクシャクしたものが音もなく流れていた。
あんなに憧れだった母が、ただの貞淑な仮面を被った淫らな女だったことが、頭の中からどうしても離れなかった。
家族の中に目に見えない溝を感じていた。
両親はそんなアオイを、腫れ物を扱うように接するようになっていった。
それが益々、苦痛を感じさせ耐えられなくなり、ついには家を出る決心をした。
そして全寮制の高校に入学した。
そうか、アオイもつらい経験をしたんだね。
慰める言葉も見つからなくてミドリはアオイの肩を黙って抱くことしか出来なかった。
でも二人の心には深い絆が出来た。
アオイはこの話をしたのはミドリが初めてだと言った。
「わたし達頑張ろうね!」
「そうだね、、、わたし達頑張るしかないんだね。」
二人はこの時から親友になった。
ミドリは少しでもソラのことが知りたかった。
でもその手立てがまったく無い。
友人たちはおそらく連絡も取れない。
そもそも、向こうはもうミドリを友人とすら思っていないだろう。
両親もソラの話は一切しない。
自分が犯したことなのに、どうしてもソラのことが知りたい。
ただ一つわかっていることは、ソラがバスケを辞めたらしいということだ。
大会をネットで調べたところ、ソラは試合に出ていないのはもちろん、メンバーの中にも含まれていなかった。
きっとわたしのせいだ。
二年生まで頑張ってきたのに、三年になって集大成だというのに。
そしてソラは一年の時からチームのエースだったのに。
わたしはソラの人生を狂わせてしまった。
でも、だからこそソラのことをもっと知りたい。
そんなとき、見かねたアオイがある提案を持ちかけてきた。
「ねえ、考えたんだけど、、、ソラくんとわたしが友達になるっていうのはどうかな?」
「ええっ、どういうこと?」
「だからさ、二人が友達になれば情報が手に入るでしょう。しかも本人からだから確実な情報が。」
「それはそうだけど、、、いったいどうやって友達になるの?」
「ミドリの話によると、逆ナンとかは絶対に無理だよね、、、」
「うん、それは絶対にソラは乗らないと思う、、、」
「こんなに美人が相手でも?」
おどけたようにアオイが言った。
「あっ、ゴメン、、、そういう意味じゃなくて、、、アオイはすごい美人だけど、ソラは逆ナンする人もナンパも嫌いだというか、、、うーん、嫌いとかじゃなくて興味が無いっていうか、、、とにかく、それは無理だと思う、、、」
「それって、おノロケなの?わたしには理解出来ないな、、、でも失敗は許されないよね?
二度、三度という訳にはいかないし、、、一発勝負だな、、、うーん、なんかドキドキしてきたぞ
、、、」
つづく
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