二人は頭を下げ校長室を出た。
山吹先生が気を遣ってくれて教室からカバンを持って来てくれた。
「斉田さん、元気を出せと言っても無理なのは分かっているし、わたしもこんなことをしたあなたを、ただ純粋に励ますことは出来ない。でもソラくんのことは任せておいて。ノゾミさんや脇野さんも協力してくれると言っているから。それとやっぱりあなたはもうソラくんと会わない方がいいと思うの、、、」
そう言ってくれることはありがたいことなのかも知れない。
でも今のミドリには最も残酷な言葉だった。
校門付近にさしかかったとき、竹中マリンが一人こちらへ向かって来た。
アツシの彼女だった。
「斉田さん、ちょっとだけいいかしら?」
学校一の美人だけあって、こんなときでも自信に溢れている。
母と山吹と離れ二人だけで話を聞く。
ミドリはアツシのことで文句を言われると思っていた。
「まずは有難うね、斉田さん、、、皮肉じゃないのよ、、、アイツがどんなにクズ男かわからせてくれたお礼、、、」
マリンは怒っていなかった。
マリンは落ち着いた口調で話を続けた。
「あなたはバカよ、、、あんなにステキな人を裏切るなんて、、、わたしね、、、ソラくんが好きだったの、、、だから同じバスケ部に入った。告白だってしたのよ、、、好きな人がいるって断られたけど、、、、それがあなただった、、、わたし、すごく寂しくて、あんな外見だけのクズ男と付き合っちゃって、本当にわたしもバカだよね、、、でもこれで目が覚めたし、改めてソラにアタック出来る。斉田さん、もうあなたと会うことも無いと思う、、、さようなら、、、」呆然と立ち尽くすミドリを残してマリンが去っていった。
知らなかった。
あんなにキレイな人の告白を断って、わたしを選んでくれたのに、それなのにわたしは見かけだけのくだらない男の誘いに乗ってしまった。
山吹先生が家まで送ってくれた。
わたしは母と先生に全てを話した。
辛くて恥ずかしかったけど全部正直に話した。
先生はいつもの優しい笑顔に戻って帰っていった。
「どうしてソラくんとのこと母さんに相談してくれなかったの?もう遅いけど、今度からは絶対に相談して、、、」
ミドリは黙って頷いた。
「新しい学校を探さないとね、、、」
「えっ、どうして?」
「このままだと退学になるっていうこと、、、その前に他の学校に入るの、、、」
「そんなのイヤだ、、、ソラに逢えなくなる、、、」
「ミドリ、ソラくんにはもう会えないの、、、」
「だって、だってソラに謝らないと、、、」
「謝ってどうなるの?許してあげるとソラくんが言ってくれると思ってるの?あなたはソラくんにとても酷いことをしたの、、、わたしがソラくんの母親だったら絶対に許せないことを、、、だからそれはソラくんを苦しめるだけ、、、」
「あっ、、、」
そうだ、きっとその通りだ。
ソラだけじゃない、わたしはソラの周りの人もいっぱい傷つけてしまった。
「わかってくれた?謝るのはミドリの自己満足だけ、、、ミドリがこれから真面目にしっかりと生きていくことがソラくんへの罪滅ぼしなのよ、、、」
わたしは返す言葉がなかった。
何もかも浅はかな自分が悲しいほどイヤだった。
ミドリは自分の部屋で泣いた。
涙が枯れるまで。
もう二度と逢えなくなるとわかって、自分がどんなにソラを好きだったのかあらためて実感した。
わたしは本当に愚かだった。
いい気になって舞い上がっていた。
二人の男の間で揺れるヒロインを気取っていた。
片方の男はどうしようも無い泥舟だとも知らずに、、、
そしてわたしもどうしようも無いクズな女だ。
あの男と同じ、まったくかわらない人間だ。
でも、、、ソラに逢いたい、、、
枯れたと思った涙がまた溢れてきた。
つづく
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