いつものことだが帰りの通勤電車は混雑する。
乗車率は180超えるらしい。
サラリーマンの疲れた匂いが充満する車内で、
私は彼の胸に顔を
埋ずめるようにして姿勢を保っていた。
目的地の彼のマンションまでは残り12駅。
時間にして25分。
それまでこの状態が続くのは正直辛い。
再びイライラが募り始めた時、
臀部に何かが触れた。
はじめは気のせいだと思ったが、
明らかに触ってくる。
彼じゃない。痴漢だ。
5本の指先で臀部を繰り返しなぞってくる。
抵抗しようにも
すし詰め状態の車内では身動きが取れない。
調子に乗った痴漢は、手の平全体で臀部を触ると
鷲掴みにしてきた。
爪が伸びているのか、刺さって痛い。
それなのに身体が熱くなり、
込み上げて欲しくない劣情が、
込み上げてくる。
一方の痴漢は尻に飽きたと言わんばかりに、
フレアスカートをたくしあげると、
私の太腿の間に強引に手を割り込ませてきた。
何をしてくるかは明白で、
恥部が徐々に熱を帯びてくる。
愛も優しさもない、
ただ己の欲求を満たすだけの行為に
快感を覚える自分が酷く惨めで、
けれども、そんなアンバランスな
心と身体の反応が余計にショーツを湿らせる。
もう、自分にも痴漢の攻撃にも耐えられない。
助けを求めて彼の目を見ると、
彼も異変を感じたのか眉をひそめる。
それと同時に迫力のある声が車内に響いた。
「お前なにやっとんねん!」
男だった。
痴漢のそばにいるらしい男は、
続け様に怒号を浴びせる。
「この手で痴漢しとったやろ!見とったで」
「してないっ! 痛いっ、離せっ、離して」
怯えた男の声が聞こえる。
「嘘つくなや!俺の隣にいるおっちゃんも見てるねん!」
男の凄みで車内の空気が揺れる。
周りも騒々しくなってきた。
アナウンスは到着を告げている。
「おら!ここで降りぃや!」
「嫌だ!」
痴漢は抵抗しているのか、
身体に何かが何度もぶつかる。
その内背後にスペースができて、
身体ごと振り返ると、
人混みが2つに割れていた。
中心には男ともう1人の中年男性によって、
車内から引き摺り出されようとしている
サラリーマンの姿があった。
手を見ると爪が伸びている。
こいつで間違いない。
「ごめん、私降りるね」
怒りと義務感で身体が動く。
「俺も行く」と言って彼もついてきた。
その後、痴漢は容疑を認め、警察に連行されていった。
私は男と中年男性によそよそしくお礼をすると、
彼と帰宅の途についた。
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