「高木さんってぇ、あんまりメイクしない人ですかぁ?」
甘ったるいしゃべり方で、後輩の篠田さんが話しかけてきた。
「あ、えと…あんまり好きじゃなくて…似合わないし…」
「えぇ~化粧したら変わりそうなのに~」
(だから30になっても彼氏のひとりも出来ないんだよ)
そう言われているような気持ちになった。
あぁ、こういう女は嫌いだ。
メイクしたら絶対キレイになれると思ってるの?
そんなの元々可愛い子だけだし、私みたいな地味子がいきなりバッチリメイクしたらどうせみんなで笑うでしょ。
笑い者になるようなこと、自らするかってんのよ…
…可愛くすることをずっと受け入れられてきた、こんな女が大嫌いだ。
「ところでぇ、明日の夜って何か予定ありますぅ?」
「え、明日?別にないけど…」
「やったぁ~じゃあ飲み会来てくれませんかぁ?」
「え、の、飲み会って…まさか…」
「うふっ♪合コンですよ、ご・う・こ・ん」
出たっ!!合コン!!
「合コン」と書いて「生き恥」と読む!
「受付の同期が組んでくれたんですけどぉ、後ひとり集まらなくって困ってるんですよ~」
「いやいやいや、篠田さんたち25とかでしょ!?私なんか行ったら向こうにも悪いって!!」
「高木さんも若いじゃないですかぁ~それに、お姉さん好きな男子って多いんですからぁ~」
若いとか言いながら完全にババァ扱いしてんじゃねーか!
嫌だ嫌だ嫌だ行きたくない行きたくない…
「ほんと助かりましたぁ~じゃあ明日19時からなんで、おしゃれして来てくださいね♪」
スキップしながら篠田さんは去っていく。
「えっ、あの…」
行くなんて言ってないのに!!押しが強い!!
しかも…おしゃれ、だとぉ!!!?
女がみんなおしゃれな服持ってるなんて思うなよ!
あぁぁ~どうしよう、何て断ろう…
「あ~お疲れ様です。高木さんも休憩ですか?」
「あ、受付の…」
「篠ちゃんから聞きました!明日の合コンよろしくお願いしまーす」
報・連・相が早い!!
仕事もこのくらいやれよ!!
情けないが、こんなに心で毒づいても本人たちには言えない。
キラキラした女たちが大嫌い以前に、圧倒されて何も言えなくなる。
私は重い気持ちで、帰り道に近くのユニ○ロへ、それっぽい服を買いにいくのであった。
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「初めまして~幹事の田村です、よろしくー!
今日はこんなキレイな人たちと飲めるなんてテンション上がってまーす」
「やだもう~軽いんだけど~(笑)」
はい、出会って5分でこんな会話が繰り広げられる地獄にやってきましたよ。
目の前にはいかにもリア充です☆みたいな、モテそうな男たちが並んでいる。
そして負けず劣らず、こちらもキラキラ女子たちが…
眩しいっ!目が痛い!怖いっっ!!
「俺らは全員職場の同期で、今年新卒なんだけど新人研修から気が合って…」
私は凍りつく。
「全員同期」「新卒」「新人研修」!!!???
みんな23くらいってことぉ?
「し、篠田さん!!(小声)」
「ん、どしたんですかぁ?」
「この子ら、みんな篠田さんたちよりも年下ってこと!?」
「そうですよ~言ったじゃないですか、最近はお姉さん好きが多いって♪」
「………!!!」
アラサーから見たら、2~3歳差なんて誤差なんだよ!!
ううぅ…心の底から帰りたい。
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はぁ、完全に浮いてるし…
みんなめっちゃ盛り上がってるから、私来なくても良かったんじゃない?
キャッキャと楽しそうにしているみんなをぼんやりと見つめる。
…nanaだったら、こんな年下リア充相手でも堂々と出来るんだろうなぁ。
「………」
『あ、nanaさん、すげぇ…ぅあ』
『なぁに、あれだけ威勢の良いこと言ってたのに、こんなにビンビンになってるのぉ?』
『だってnanaさん…俺、こんなこと初めて…うぅっ』
『ふふ、可愛い♪おちんちん、こんなにしちゃって…次どうしたいの?』
『し、したいっ!俺、もう我慢できない…』
『仕方ないなぁ…じゃあ、私ので気持ちよくしてあげる。ほら、挿れて良いわよ』
『nanaさんっ!!!』
はい、リア充ひとり落ちました~。
…む、むなしい!!
ひとりイメプレはただの妄想!!
はぁ~とため息が出る。
「あの~高木さん、ここ良いですか?」
「えっ!?」
少し照れ臭そうに、ひとりの男子が声をかけてきた。
「へぁっ!?あ、ど、ど、どうぞ!どうぞどうぞ!」
「あ、すみません。えーと、あっちが空いてますんで…」
「え……あ~~…はいはい!!了解です!」
篠田さんの隣に座りたいだけかよ!
そして私は隅っこへ行けと…
もう、帰ろうかなぁ。
でもそんなことしたら空気悪くなるし…
モヤモヤしながら私は隅の席に座る。
「ここ、失礼します…ん?」
同じく隅に座る男子は、ちびちびと日本酒を飲みながら黙々と枝豆を食べている。
垢抜けない黒ぶちメガネ。
そこはかとなく漂う同類の香り。
こ、こ、これは!
童貞野郎(味方)だーーー☆
『ヤリチンの群れに何故か紛れ込んだ童貞くさい男』
それが、彼、橋本航大(こうた)への第一印象だった。
そしてこの男こそ、私が処女を捧げることとなる張本人なのである。
〈つづく〉
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