today´s DETA
physical age:17
height:175㎝
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どれくらい時間が経っただろう。
来島くんは身体の激痛と高熱にうなされており、私は傍を離れることができなかった。
コニーちゃんはああ言ったけど、相当辛いのは事実だから、15歳の身体が必死で耐えている姿を見ていると時々涙がこぼれた。
こんなに辛い思いをさせるなんて想像もしていなかった。
来島くん、ごめんなさい。
「ご、めんなさ…んぅ」
「……い、おーい、榊~風邪引くぞぉ」
ペチペチと頬を叩かれる。
「…へ、あれ…寝てた、えぇ今何時…」
「もうすぐ朝の5時。俺、10時間以上寝てたんだな~」
「…はっ!来島くん、大丈夫!?熱は…あ…」
目の前の彼は、10時間前と比べると一気に大人になっていた。
声もさらに低くなり、Tシャツから出た腕にはしっかりと筋肉がついている。
「身体がミシミシいってるけど、だいぶ良い感じ」
身体を伸ばすと、ボキボキと音がなる。
「そう……良かったぁ…」
ぐぅぅぅ…
「…うぅ、腹へったぁ~~」
笑う顔には、まだあどけなさが残っているけど。
「夕飯食べず仕舞いだったもんね。なんか作るよ」
「…榊、大丈夫か?目赤いけど…」
すっと来島くんが顔に触れる。
「っ!!だ、大丈夫!全然大丈夫!!」
アワアワしながらキッチンに向かう私を、来島くんは不思議そうに眺めていた。
トントントントントントン…
やばい、やばいぞこれは。
来島くんは完成形に近づいている。
昨日までは美少年がいるって感覚だったけど、もう「ちょっと若い来島くんがいる」だ。
さっきだって、顔を触られただけでこんな…
私は真っ赤になった顔を押さえる。
この2日間で確信した。
私は来島くんのことがまだ大好きなんだ。
あんなに陰でひどいことを言われたのに、それでも嫌いになれない。
来島くんが前みたいに優しかったりするから、心のどこかで期待してしまう。
私のこと、また好きになってくれたのかなって。
いやいや、そもそも私はそこまで好かれてなかったのだ。
白沢さんたちと、楽しそうにそう言ってたじゃない。
彼は元に戻るために私とのセックスが必要なだけで、完全に戻ったらまた離れていく。
仕方なく、ここに居るだけだ。
…やばい、今さらだけど辛い。
見た目が子どもだったから何とか気持ちを自制できてたけど、彼の姿はずいぶん大人になってしまった。
私、割りきってセックスできるんだろうか…
早く好きなんて気持ち、消えてしまえばいい。
(うぅ落ち着け…無心無心無心…)
トントントントントントントントントン…
「そんなにネギ使うか?」
後ろから急に来島くんに声をかけられ、ビクーッとなる。
立ち姿を見ると、改めて成長しているのが分かる。
私の身長を軽く越え、25歳とほとんど変わらないくらいの大きさだ。
「ちょっと!!急に現れないでよ、ビックリするじゃない!!!」
「お、おぉ…ごめん」
コニーちゃんに「そんなに怒んなくてもいいのになぁ」と声をかけながら、彼はリビングのソファに座る。
食器を出しながらチラチラと来島くんを見る。
薄目で見たらほぼ大人の来島くんじゃない…
あ、でもちょっと今より華奢な感じあるなぁ。
髪は昨日より少し短くなってる。
眉毛はちょっとだけ細い…色気付いてきたな(笑)
…高校生の時、来島くんはこんなだったんだぁ。
いつの間にか凝視しており、ぽわんと顔が緩む。
「……何か手伝う?」
視線に気づき、顔をこちらに向けられる。
「っ!き、急にこっち見ないで!ビックリするでしょ!!!」
「えぇぇ…ご、ごめん」
ダメだ…身が持たないかもしれない。
「どうしたの、榊。情緒がやばくない?」
〈一気に来島くんが大人になってきたからねぇ〉
「え、良いことじゃねぇか。呪いが解けてるんだから」
〈はぁ、来島くんも女心に疎いのかしら~〉
「んん??」
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「じゃあ行ってくるけど、何かあったらすぐ連絡ちょうだいね」
「分かったよ、心配しすぎだって(笑)」
今日はみなみちゃんとのランチの約束だった。
本当は来島くんの体調が気になるけど、朝の様子だと大丈夫だろう。
それに、ちょっと距離を置かないと心臓がドキドキしてもたない。
少し離れて頭を冷やすんだ。
「最近、来島くんへの呪いは順調?」
みなみちゃんに問われ、ブーッと吹き出しそうになった。
「え、あ、呪いは…その」
「こないだから体調不良で休んでるじゃん?あれってもしかして塔子の……なーんてね!そんなわけないじゃんねー(笑)」
「は、ハハ…ソウダヨ~」
バッチリ呪いがかかってしまい、それを解くために毎晩セックスしてますなんて、口が裂けても言えない…
「…でも、呪いたくなるくらい好きだったんでしょ?もう吹っ切れてんの?」
「……簡単には…無理、かなぁ」
「まぁそうだよねぇ…何で来島くんが別れようと思ったかは分かんないけどさ、納得のいく話もできないままじゃねぇ」
「うん…」
♪ピロン
「…あ、矢野くんだ」
「え、なんで矢野くん?仲良かったっけ?」
「実は昨日偶然…」
来島くんのことはごまかしつつ、ボウリング場での話をするとみなみちゃんは目をキラキラと輝かせた。
「いいじゃん!矢野くん!そりゃ来島くんには敵わないけどさ、見た目悪くないし仕事もちゃんとしてるし!」
「そ、そうなのかなぁ…」
「まぁ恋愛面の話は全然聞いたことないけど、悪くない感じだけどなぁ」
「うーん」
「…塔子、来島くんのことまた頑張るんだったら応援するよ。
でも忘れたいなら、他の男と会ってみるのも良いんじゃない?
ほら、とりあえず返事しときなよ」
「う、うん…」
『昨日はどうも。今日もいとこ君とデートですか?』
いとこ君…
そうだよ、来島くんがこんなことにならなかったら、私たちがデートすることなんて二度となかったんだ。
それももうすぐ、終ってしまう。
終わる前に、好きって気持ちも消してしまいたい。
カチカチカチ…
『こんにちわ。今日は岡崎さんとランチしてます。外はあったかくて気持ちいいです』
すぐ既読になり、しばらくすると返事が来る。
『ランチいいなぁ。岡崎さんとも仲良しですね。
ところで、今日の夜は時間ありますか?
俺ともデートして欲しいなぁ、なんて。
突然だから無理かな?』
「……え?」
「なになに、何て…キャー!キャー!良いじゃん、何これ~」
「か、からかってんじゃない?」
「塔子!これは行ってみるべきよ!分かんないけどさ、何か、これは絶対行くべきだってぇ!!」
「みなみちゃん、落ち着いて(笑)」
『夕方には解散するので、18時頃からなら大丈夫ですよ』
みなみちゃんに半ば無理やり返信させられると
『良かった!嬉しいな。
じゃあ18時に駅前で待ち合わせませんか?』
と矢野くんからお返事がきた。
うわぁ…何この急展開。
久々の男性との約束に、少しドキドキしてしまう。
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〈来島くーん!塔子ちゃんから電話だよ~急いで急いで!!〉
コニーちゃんはスマホの周りをくるくると飛んでいる。
『はいはいはい!はい、もしもし。どした?』
「あ、来島くん。あのー私、今日遅くなっちゃうかも…」
『え、17時過ぎに帰るって…』
「ごめん!えっと…みなみちゃんと盛り上がっちゃって、その…まだ話し足りないねーって…」
『分かったけど、あんま遅くなるなよ。明日月曜なんだから』
「う、うん。分かってる!あんまり遅くならないようにす…」
「榊さん!ごめんね、待った?」
「うわぁ!!」
後ろからポンッと肩を叩かれる。
「そんなびっくりしなくても(笑)あ、ごめんね、電話中だった?」
『…………』
「だ、大丈夫だよ~…も、もしもし?みなみちゃん待ってるから行くねー…」
『岡崎じゃないじゃん』
「えっ?」
ちょっと怒ったような声に、ドキッとする。
『何で嘘つくの?そこにいるの岡崎じゃなくて別の……え、もしかして、矢野?』
す、するどいっ!!!
「えーっと、たまたま矢野くんとも会ったから、ご飯とか行っちゃう~?って話になって、その…」
『それならそう言えばいいのに、何をこそこそ…
てか岡崎、本当にそこにいんの?もしかして矢野とふたり!?』
す、するどすぎるっ!!!
『あのな、榊。お前もうちょっと危機感…』
「べ、別に良いじゃん!」
『え?』
「私が誰と会ってようと関係ないよね!?
もう彼氏でもないのに、口出ししないでよ!」
『あ、おい!榊!?』
ブツッ!!
何よ、人のことフッたり貶したりして良いように使うくせに。
私の行動にまで口出ししてこないでよ!
「電話、終わった?」
私だって前に進むんだ。
叶わない思いにずっとしがみつくのはしんどい。
この人が、矢野くんがもしかしたら、私をそのしんどさから救ってくれる人かもしれない。
「うん、行こっか」
つづく
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