ありがとうございます(*^^*)
今回Hシーンなしですけど、読んでもらえたら嬉しいです。
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私の名前は「白沢 美麗」と言う。
「美しく、麗しい女性になるように」という、両親の願いが込められている。
両親や周りは幼い頃から私を非常に可愛がり、ほとんど叱られた記憶もない。
実際に私の顔はとても可愛らしく、勉強も良くできた。
私の周りには自然といつも人が集まっていて、私にとってもそれは当たり前のことだった。
大学まではその当たり前が何の問題もなく続いていたが、社会に出ると少し違和感を覚えた。
会社には、良い大学を出ていたり、容姿の整っている人が何人もいたのだ。
もちろん自分も上位にいることは確かだが「1番」じゃない。
初めて感じる、猛烈な嫉妬や嫌悪。
特に、良い大学を出ていて、先輩たちに「可愛い」とチヤホヤされていた「早瀬さん」という同期の女のことは、心底気に入らなかった。
私も持ち前のルックスや身の振り方で、男性たちからそこそこ支持されていたが、大した努力もしてなさそうな早瀬さんが、私よりもモテている現状にイラつきを感じていた。
そこでふと、同じく同期の来島くんが目が留まる。
彼は、同期の中でも頭ひとつ抜けて非常に優秀な人だ。
スポーツ推薦らしいが良い大学も出ているし、そして何より見た目が良い。
彼が歩いていると、皆がうっとりとした目で追っている。
そうか、早瀬さんに勝つには、来島くんが必要なんだ。
来島くんが私のものになれば、私は皆からとても羨ましがられるだろう。
そして、私の価値も正当に評価される。
そう思ってから、私は来島くんを落とすためにあれこれ画策してみたが、簡単には落ちてくれなかった。
それもまた「周りのつまらない男たちとは違う」と、私の欲望を駆り立てた。
そんなある日、早瀬さんがニコニコと来島くんに近づいている姿を見かけた。
『来島ぁ、こないだはフォローありがとね。
テンパっちゃってたから助かったよ~』
『別に大したことしてないよ。ほとんど早瀬が準備してたので間に合ったじゃん』
『へへ、来島がいて良かったぁ。
…あのさ、お礼ってわけじゃないんだけど…今度、その…一緒に』
『来島ー!あ、いたいた、課長が探してたぞ』
『あ、はい!すぐ行きますー!あ、ごめん早瀬、何て?』
『…ううん、何でもない!ごめん、引きとめて』
『そ?じゃあ、俺行くわ』
熱のこもった視線を来島くんの背中に向けている早瀬さん。
それを見た時に、私の中にすぅっと冷たい空気が入り、ひとつの思いがハッキリと浮かんだ。
早瀬さん。私の邪魔ばかりする人。排除すべき人。
その思いが明確になってからは早かった。
若くて可愛い彼女を良しとしていなかったお局さまたちに、軽く盛った彼女の噂話を吹聴すると、露骨に彼女は嫌味や理不尽な説教をされることが増えた。
私には優しい同期の友達がたくさんいたので、お局さまと一緒になって早瀬さんを攻撃してくれた。
彼女は可愛い顔をしているくせに、人に甘えたりはしない女だったので、どんどんと1人で抱え込み、日に日に弱々しくなる姿は情けなくて可笑しかった。
お人好しな同期の女たちは心配そうに声をかけていたが、変なプライドがあるのか「大丈夫だよ」と言っていた。
そんなところも気に入らなかった。
しかしそんな状態が長く続くはずもなく、彼女は遅刻や欠勤をするようになり、最後は仕事に来なくなった。
馬鹿な女だ。
私のように上手に甘えられるスキルがあれば、こんなことにはならなかったのでは?
1人で何でも解決しようとするから、余計に反感も買うのだ。
いくら可愛くても、世の中の上手い渡り方を知らないなんてもったいない。
どちらにしても、これで邪魔者はいなくなったので心置きなく来島くんと一緒にいられる。
そう思っていたのに。
『ぐすっ…うっ、早瀬さんに、私…何もできなかったよ…』
『…塔子が悪い訳じゃないよ…私だってもっと気にかけてれば…』
同期の中でもお人好し・おせっかいコンビの榊さんと岡崎さんがラウンジでうなだれていた。
こういう女たちも好きではない。
『ごめん、塔子…ちょっと呼ばれてるから行くね』
榊さんは泣きながら頷き、また机に突っ伏して泣いていた。
あぁ、陰気な女だなぁ、とうんざりしていると入れ替わりに来島くんの声がした。
『早瀬のこと…気にしてんの?』
『…当たり前じゃない』
『早瀬に何があったか詳しくは分かんないけど…榊のせいじゃないんだから、そんな泣くなよ』
『だって…』
『俺も、早瀬が悩んでるの気付いてやれなかったし…』
『…早瀬さん、いっつも大丈夫大丈夫って……全然大丈夫じゃなかったのに…う…うぅ~』
何で他人のことでこんなに泣けるわけ?
私には理解できないし、したいとも思わない。
偽善者にしか見えず、イライラする。
だけど来島くんは、そんな偽善者の頭を優しく撫でていた。
『…早瀬、田舎に帰ったって。あっちには家族や友達もたくさんいるから、のんびり休むって聞いたよ。
早瀬だってあっちで頑張ってんだから、榊がいつまでも泣いてたら、あいつ心配するぞ』
『…ぐずっ…ずっ……う、うん…そだね…早瀬さん、優しいもんね…』
…ちょっと、そこのポジションは私でしょ?
優しくされている榊さんにイラッとしたけれど、彼女は所詮「その他大勢」だ。
見た目も普通、出身大学も普通、仕事の出来も普通。
私が劣っているところはひとつもない。
そう思うと、来島くんの行為も情けない同期を同情する思いから来るものだと分かるし、そんな来島くんの優しさを私は高く評価した。
だがその1年後に、2人が付き合ってるんじゃないかという噂が流れた。
お花見の後くらいから、一緒に帰っているのを見かけたという話だ。
私の誘いにはまったく応じないのに、榊さんと一緒にいるなんてどういうこと?
さすがに付き合っているとは思えなかったけど、あの女も調子に乗らないようにちょこっと警告すると、そんなくだらない噂もすぐに聞かなくなった。
それどころか、なかなか振り向かなかった来島くんがよく私のところへ来るようになった。
私のことを「可愛いね」「白沢さんがニコニコしてると癒されるよ」なんて甘い言葉を言うようになってきたのだ。
だけど後ひと押しがなかなか効かずに、完全には落ちてくれない彼に、私はヤキモキする。
次はどうしようかと思っていたら、来島くんは急に仕事を休んでしまった。
電話もメールもなかなか繋がらず、苛立ちは募る。
榊さんも懲りずに来島くんのことを話題に出しているかと思ったら、今度は矢野くんに取り入ってるの?
矢野くんだって、うちの部署ではかなりの優良物件だ。
万が一、来島くんがダメな場合は矢野くんでも…と思ったこともあったのに。
あら、榊さん…
あなたこそ、本当に邪魔な人だったのかしら。
私の中で、また冷たい空気が流れた気がした。
つづく
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