読んでくれて嬉しいです!
today´s DETA
physical age:24
height:177㎝
*********
目が覚めると、私は腕枕をされていた。
顔を左に向けると、スヤスヤと眠る来島くん。
昨夜とは異なり、黒髪に戻っている。
いよいよ社会人の来島くんに戻ってきたのだ。
「ん、う…」
来島くんは右手で私の頭を触ってくる。
どうしよう……好き。
すごく、すごく、好き。
胸がギュウッと締め付けられる。
こうやって肌を重ねるのは、あと1回もあれば良いはず。
あぁ、好きって気持ち…結局消えなかったなぁ。
*******
「ふぁぁ…おはよ~」
「あ、おはよう」
朝ご飯を用意していると、眠そうな来島くんが寝室から出てきた。
〈おはよーって…来島くん、しゃんとしなさいよ~もう24歳まで戻ってるんだから!〉
「え、本当!?…おぉ~髪黒くなってる…今さらだけど、これどうなってんだ?」
鏡をしげしげと見ながら、不思議そうにしている。
「…ん、24歳?一晩で3歳も戻ったわけ?」
「あ…」
言われてみれば、悪夢のような一昨日だって、あれだけして4歳しか戻ってないのに。
昨日の1回だけで3歳?
〈あぁ~〉
コニーちゃんはニヤニヤとしている。
〈最初に言ったでしょ、この呪いの原動力は塔子ちゃんの「淫の気」だって。
それを解放するためのエッチなのよ?
そりゃあ来島くんが気持ち良くなればなる程、解放の勢いも大きくなるわけよ。ま、一晩の限度はあるけどね〉
「それはそうなんだけど、昨夜は1回しか…」
〈だからぁ、気持ち良さはイコール回数だけじゃないの☆〉
「へ?」
〈……昨日の塔子ちゃん、とっても積極的みたいだったじゃなーい?〉
うぷぷぷ、と笑いながら高く飛び上がる。
〈来島くん、嬉しくて相当感じちゃったんじゃなーい?〉
「えっ!?」
「な…っ!」
〈塔子ちゃんも、来島くんを気持ち良くさせたいって後悔しまくりだったし…
つまりそれだけ、昨日はお互いを想った濃厚なエッチだったってことよ!ウキャキャキャー♪〉
真っ赤になる私たちの周りを、コニーちゃんははしゃぎながらブンブンと飛び回る。
「…お前は人を茶化すことしかできねぇのか」
〈本当のことだもーん〉
お願いコニーちゃん、気持ち掻き回さないでぇ…
私は火照った顔を沈めるため、顔を洗いにいく。
〈…来島くん、あと1回よ。それで呪いは完全に解けるわ。
あなた…昨夜の塔子ちゃんの言ったこと、ちゃんと聞いてたでしょ?〉
『くる、しまくん…好きぃ…好きなのぉ』
「…うん」
〈塔子ちゃん、抑えてた気持ちがついこぼれちゃったのねぇ…はぁ、来島くんが、人の気持ちを考えられないクズでないことを祈ってるわ〉
「…分かってるよ。でも今はまだ……ん?」
ガシッと来島くんはコニーちゃんを右手で捕まえる。
「…何で榊の言ったこと知ってんだよ…お前、まさか…」
〈っ!!違うもん違うもん!これはあくまで適切な説明と助言をするためであって、決して面白そうだからのぞいちゃえ~ってわけじゃ…〉
ハッと口を両手で押さえるコニーちゃん。
「てめぇ…やっぱのぞいてたのかよぉぉ!!」
「ちょっと何騒いでんの……え?」
ひぃぃん!!と泣きながら部屋中を飛び回るコニーちゃん。
丸めた新聞を片手に、プリプリと怒りながら追い回す来島くん。
〈バーカバーカ!来島くんの優柔不断!カッコつけ!ヤキモチ焼き!〉
「くぅっ…このポンコツ悪魔がぁ!!」
〈悪魔じゃないもん!!怒りんぼー!!〉
「……朝ご飯、先に食べてるね」
私は脱力しながら、ふたりの子どもみたいなケンカを見ていた。
********
「え~来島だけど、やっと退院できたようで、今週中には復帰の目処が立ったと連絡が入った。でも病み上がりだからな、無理させないように」
昼前、部長がニコニコと私たちに報告してきた。
病み上がり…ご飯食べてビール飲んでセックスしてましたけど…
それにしても来島くん、もう仕事に戻る気まんまんだ。
今夜で終わらせるつもりかな…そう思うと何だかまた胸が締め付けられる。
来島くんの復帰の報告に、白沢さんたちはキャッキャッと色めき立っていた。
「快気祝いしてあげようよ~」
「いいね!どっか週末でさぁ…」
何だかその会話が聞きたくなくて、廊下に出る。
まだ昼休みが始まったばかりだから、ラウンジは人がほとんどいない。
「どしたの、元気ないね」
矢野くんが顔をのぞき込んできた。
「わ、びっくりした…」
「来島、戻ってくるの良かったじゃん」
「そうなんだけど…」
この胸のモヤモヤ。
きっとどこかで、このまま来島くんを独り占めしたいと思ってるんだ。
私だけが来島くんの秘密を知っている。
私だけが来島くんを助けてあげられる。
「あ、そうそう。来島って何か新しいプロジェクトでも任されてるの?」
「…え、どうして?」
「あいつ、ここ一月ぐらいの間に結構大きい仕事をこっちに引き継いでくれないかって言ってきてさ。俺だけじゃなくて、他にも何人か任されてるやついるみたいで…
だからあいつが今休んでる今も、何とか仕事が回ってるとこあるんだよね。
もし引き継ぎしてなかったらヤバかったよ。
でも、いきなり何で?って思ってさ。何かプロジェクトでもさせられてんのかなぁ~と」
「…新規プロジェクトなんて話出てないし、来島くんからも何も…」
何も聞いてない。
「そっか……うーん…あいつまさか、本社とかに異動じゃないよね?」
異動?
ドクンッと胸が速くなる。
「実は内々ですでに辞令出てて、ちょっとずつ仕事分担してるとか……ってあ、ごめん!推測だから…あいつ何も言ってないんでしょ?じゃあ俺の考えすぎだから、ね?」
私があまりに動揺した顔をしているのを見て、矢野くんは慌ててフォローしてくれる。
「矢野くん、私何も聞いてない」
「うん、そうだよね。ごめんごめん」
「何も…教えてくれないんだもん、来島くん…何考えてるのか、私…分かんな…」
目の奥がツンとして、熱いものが溢れそうだった。
上向きで何度も瞬きをして、何とか引っ込ませる。
ここ最近はいろんな話をした気がしたけど、結局肝心なことは何も分からない。
何が私だけが…だ。
おこがましいことを思っていた自分が恥ずかしい。
すると、ポンッと私の頭に矢野くんが手を乗せる。
「うーん…男はさぁ、何て言うか、カッコつけだから、悩んでるとことか必死で頑張ってる姿、彼女とか好きな子にあんま見せたくないやつもいるんだよ。
不安かもしれないけど、ちょっとだけ見守ってあげたら?」
ニコッと笑いながら頭をポンポンと撫でてくれた。
「…ありがと、矢野くん。でもあの…私、来島くんとは付き合ってないし、別に好かれてるわけでも…」
「…こないだはただの噂って言ってたけど、本当はちゃんと付き合ってたんじゃないの?」
「へぇ!?」
「ぶはっ…本当、顔にすぐ出るよね。
何で別れたのか知らないけど、榊さんこんなに未練たらたらじゃん。
…来島、そんな別れ方するやつには見えないんだけどなぁ」
「うん……」
ラウンジに人がガヤガヤと入ってきたので、矢野くんはそっと私から手をのけて、ヒラヒラと手を振って出ていった。
転勤…まさか、でも…
ざわつく気持ちがおさまらなかった。
**********
「さっきのあれ何?頭ポンポンとかされてたんだけど」
「え、矢野くんと付き合ってるの?」
「うそぉ~矢野くんちょっと狙ってたのに…」
「てか、前は来島くんで今度は矢野くんって…
榊さん、目立たないのになんで?」
ラウンジの外でヒソヒソと女性社員が集まっている。
「ねぇ、白沢さん?」
「………うざ」
取り巻きの真ん中にいる白沢さんは、低い声で呟いた。
つづく
※元投稿はこちら >>