長くなってるのに、読んでくれてありがとうございます(T_T)
today´s DETA
physical age:21
height:177㎝
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「本当に申し訳ありませんでした…」
朝の7時過ぎ、来島くんはベッドの上で正座し、私に深々と頭を下げた。
「…信じらんない。止めてって言ったのに…何回も言ったのに…」
「ほんっとにごめん!!全然自制がきかなくて…情けないです…」
手をパンッと合わせて謝っているが、私がむくれているのを見てしょぼんとうなだれる。
髪は昨夜より少しだけ長くなり、色も明るくなっている。
「……今の来島くん、チャラそう」
「こ、これは…この時しかできないと思って染めてた時期で……っ、あ…いたたた」
顔を歪め、足を崩す。
「あー…やっぱこれも再生されるのか」
「なに?…あ」
来島くんの右足には、昨日まではなかった痛々しい手術痕があった。
新人研修の時に「その傷どうしたの?」と周囲に聞かれ、少し言いにくそうにしながらも話してくれた。
来島くんのサッカーの腕前はかなりのものだったようで、大学もサッカー推薦、試合の時には何チームか監督やコーチが見に来ることもあったらしい。
しかし大学3年の春、試合中に大ケガを追ってしまった。
前十字靭帯の損傷。
苦しい手術とリハビリに耐え、何とか日常生活は不便なく過ごせるまで回復したが、サッカーの世界に戻ることは叶わなかった。
『やだぁ、来島くん可哀想…』
『え~もったいないよねぇ』
その話を聞いたみんなは、彼に同情しながら騒いでいた。
『…まぁ、プロなんて厳しいと思ってたし、ちゃんと就職した方が将来安泰だしね』
と笑っていたことを覚えている。
「21歳なら、まだオペして1年経ってないくらいか…さすがに正座はキツイみたい」
右足をさすりながら痛そうに笑う。
「昨日、バーまでめちゃくちゃ走ったのに全然余裕でさ…またあんなに走ることができるなんて、ちょっと嬉しかったなぁ」
25歳になった今でも、激しい運動や、長時間走るようなことはちょっとキツイのだと聞いた。
「当時の気持ちも…再生されてるの?」
私は傷痕にそっと触れながら尋ねる。
「……大丈夫だよ。前に、榊から御守りもらったし」
「御守り?ん、何それ」
「覚えてないのかよ~ひどいなぁ」
ハハッと来島くんは目を細めて笑う。
〈塔子ちゃーん、もう7時半過ぎてるけど仕事良いのぉ?〉
「えっ!?よ、良くないよ!!」
私は急いで準備をし、慌ただしく家を出た。
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職場につくと、バタバタとみなみちゃんが走り寄ってきた。
「塔子塔子塔子ぉ!ちょっ、き、昨日どうだったの!?」
「あ、矢野くんのこと?」
私は小声で返す。
「あっ、矢野くんもそうだけど…それより来島くんよ!!あの後お店に来たんじゃないの?」
「えっ!?みなみちゃん、なんで知って…」
「やっぱりぃ~やるじゃんアイツぅ!
わざわざ私に電話してきてさ、塔子と矢野くんがどこに行ったか教えてくれって頼み込んできたのよぉ」
「え、うそ…」
そっか、それで来島くんは私たちの居場所が分かったのか。
昨日は問いただす前にセックスに流れ込んでしまったため、聞けず仕舞いだった。
「ねぇ…来島くんの気持ち、ちゃんと確かめた方が良いよ!」
「え…でも」
『今はまだちゃんと言えないけど…』
昨夜、強く抱き締められて言われた言葉がよみがえる。
「塔子、顔赤いよ?…やだ、何思い出してんのよぉ?」
みなみちゃんがニヤニヤと突っついてくる。
「ち、違っ!…みなみちゃん声でかいって!」
「何の話してんのぉ?」
振り返ると、朝からメイクバッチリな白沢さんがニコニコしながら立っていた。
みなみちゃんは小声で「ゲッ」と呟く。
「来島くんの名前が聞こえたんだけど~」
「気のせいじゃない?」
みなみちゃんがにっこりと返す。
その言葉を無視して、白沢さんの視線が私に向く。
「榊さん、また変な噂立てて、来島くんに迷惑かけないであげてね?」
ニコッと微笑んで、白沢さんは自分のデスクへと帰っていく。
「…まっじであの女腹立つわぁ…何様よ…」
声を殺しながら、みなみちゃんはプルプルと震えていた。
「落ち着いて、まだ近くにいるから!ね?」
私は慌ててみなみちゃんをなだめる。
白沢さんがこっちを見てないか顔を上げると、矢野くんと目があった。
矢野くんはちょいちょいっと手招きして、廊下に出ていった。
「……?」
ガコンッ
「あ、いた。矢野くん、どうしたの?」
ラウンジ前の自販機でコーヒーを買ってる矢野くんを見つけた。
「これ、昨日のお詫び」
そう言って、私にコーヒーを渡す。
「えっ!?何の?」
「昨日はぐちぐちとみっともないとこ見せたし、そのせいで榊さんのこと泣かせちゃったみたいだから」
「あ、いや…あれは私が勝手に…」
「…好きなやつの悪口聞かされるなんて、嫌だよねぇ」
「えぇ!?す、好きな…」
「ふふっ…榊さん、顔に出やすいからなぁ」
矢野くんはおかしそうに笑う。
「…昨日のは完全に俺の嫉妬。
来島が仕事に真面目で真剣に向き合ってるの、悔しいけどちゃんと分かってるから。
…惨めになるから、もうあんなこと言うのやめるよ」
「矢野くん…」
本当は、ちゃんと来島くんのこと分かってたんだ。
「それと、話は違うんだけど…」
そう言って声を落とし、軽く周りを見渡して人がいないことを確認する。
「白沢さんには気を付けなよ」
「へ?」
「あの子、かなり来島に執着してるみたいだから。
ちょっとでも来島に近づこうものなら、手段を選ばず妨害してくるって聞いて…」
その経験、私にも身に覚えがある。
「男の懐に入り込むのはうまいからさ、ターゲットにされたらなかなか周りからのフォローもしてもらえず、どんどん追い詰められて辞めた子もいるって」
そうなのだ。彼女は怖い。
男性社員の前では良い顔をするので、白沢さんはマドンナ的扱いで可愛がられている。
そのイメージをうまく使いながら、来島くんに近づく女性社員を結構ひどい手を使って陥れていた。
職場に入りたての頃、同期で1番可愛かった女の子は、来島くんと仲良くしていたために陰で嫌がらせを続けられ、気を病んで辞めてしまったこともあった。
私が片想いをしながらもアピールできなかったのは、自分が平凡で気が引けていただけでなく、こうした前例があったことも理由のひとつだった。
それにしても…
「矢野くん、裏事情に詳しいね。白沢さんのことをそんなふうに警戒する男性社員、ほとんど聞いたことないよ…」
「……まぁ、中途採用だったから、積極的に社内のこと聞いてたらたまたま耳に入ってきて…」
(ちょっかい出してた女の子たちから聞いた話とは言えないなぁ)
「へぇ~そうなんだねぇ」
「とにかく気を付けなよ?…まぁ、困ったら相談くらいのるから」
「うん…ありがとう」
「あ、そうだ。榊さんのシスコンいとこ君たちはどうしてる?」
ちょっと意地悪そうに聞かれた。
「えっ、あぁ~じ、実はあの子たち海外で暮らしてて、もう今日のうちに帰っちゃうんだよねぇ~」
(うう…矢野くん、うそばっかついてごめん!)
「そっかぁ、そりゃ彼らも残念だろうね」
「残念?」
「大好きな榊さんと離ればなれになっちゃうなんて、残念に思うでしょ」
「大好きって…」
「ふふ、気付いてないふりしてあげてるの?ふたりとも、俺にすごく威嚇してたもんなぁ。
子どもらしいって言うか、可愛いよね」
(子どもらしい…中身は25歳なんですけど…)
それよりも、大好きってなに。
さすがに昨日の様子を見ると、嫌われてはないのかなと思うようになったけど…大好きだなんてそんな…
あぁ、誰かさんのせいで腰も頭も痛い。
つづく
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