仕事が一段落つき、僕はポケットの中に忍ばせていたタバコを取り出した。
ポトっ
床の上に紙が落ちた。
それを拾い上げ中を見て今朝のことを思い出した。
すっかり忘れていた。
車内ですぐにズボンも乾きシミもさほど目立つものではなかったし、仕事の忙しさで完全に彼女から紙を渡されていたことを忘れていた。
タバコに火をつけて、大きく吸い込んだ煙は肺を痛めつけ、口から空高く吐き出された。
とにかく電話をかけてみたい気持ちになった。
ポケットからスマホを取り出し、紙に書かれている携帯番号を指で押していった。
プルルルル、、プルルルル、、
呼び出し音だけが虚しく僕の耳に響いてきた。
まさか、電話に出ることなんてないだろうと思って電話を切ろうとスマホの画面に手を伸ばした時
「もしもし、藤堂ですが、、、どちら様でしょうか?」という、朝聞いた可愛らしい声がスピーカーから聞こえてきた。
「あっ、もしもし。今朝、Mドナルドでジュースを、、、」
「あっ、朝はすみませんでした。クリーニング代ですよね。いくらかかりましたか?」
「いえいえ、なぜだか無性にあなたの声が聞きたくなって勝手に電話してしまいました。」
「そうなんですね。でも、クリーニング代はしっかりと請求されてくださいね。」
「いや、シミもなく綺麗になりましたのでクリーニングはいいですよ。」
「それでは私の気持ちが納得出来ないので、、、」
「じゃあこうしましょう。今度僕と食事に行ってください。」
僕は自分が何を言っているのかがわからなかったが、受話器の向こうからは可愛らしい声で、「はい。そんなことでいいのですか?」と聞こえてきた。
僕は耳に当てていたスマホを一瞬落としそうになった。
「えぇ、いいんですか?本当にいいんですか?」
僕は何度の彼女に聞き直したが、同じ返事をもらった。
僕はもう片方の手で小さくガッツポーズをして、待ち合わせの日時や場所を連絡した。
※元投稿はこちら >>