ある会社の思い出26
引っ越し業者さん
午後は引っ越しのためにアパートの部屋を片付けた。そんなにモノは多くないけど、捨てるに捨てられないものばかりで、引っ越し費用がかかりそうだ。
でも、いくらかかっても、後で領収書と明細書を出せば、全額、今度の会社が払ってくれる。そういう規約の書類が保証人の書類と一緒に茶封筒に入っていた。
コンピュータ学院の教科書は捨てられない。実地に役立つことは少ないけれど、役立たないわけでもないから。趣味のフィギュアも持っていきたい。腹筋を鍛えるベンチ付きマシンも捨てられない。捨てられないものばかり。
フィギュアも、教科書も近くのスーパーからもらって来た段ボールに次から次に詰めて梱包した。困ったのが高校生の頃からお小遣いで買いためたエロDVD。ネット配信のご時勢だからこんなものは全部捨てようと思うけれど、捨てられない。捨てる前に少し見ておこうと思ったのがいけなかった。その日の夜は何本もhなDVDを見ながら自慰して、カップ麺を食べてごろ寝のまま寝てしまった。
来訪者のチャイムの音で目が覚めた。
あっ、そうだった。今朝、引っ越し費用の見積もりを「赤猫さんの引っ越し便」に頼んでいたんだった。
服は着たままで寝てしまったから、そのまま、髪だけを手櫛で整えて、ティシューのかたまりをゴミ箱に入れて、急いで玄関のドアを開けた。
開けてビックリした。
「赤猫さんのクイック引っ越し便」のグレーのツナギを着たかわいらしい女の子が立っていた。この頃からグラビアに登場し始めていた池田エ◯イ◯にそっくりな女の子。
表札出てないけれど、松田陽子さんですよね?
はあ?
林葉宗介ですけど?
と僕。
ちょっと待ってください。そう言って、小脇に抱えていた自社製のクリヤーブックを開いてページを探す。
あれっ?
同じ場所なのに違うのかな?
そう言って携帯で事務所に連絡する彼女。小ぶりな胸のあたりに窓が付いていて、名刺大の紙のネームプレート。村田悠美と書いてある。
「えぇ、そうなんですけど、、、ええ、チェックして、、、でも書類ではそうなっていて、、、ミスですか、わたしじゃないですよね、、、そうですか、本社のミス、、、わかりました。そうですよね、同じことですものね。はい、了解です。」
かわいらしい村田悠美さんが携帯をツナギの腰のあたりのポケットにしまう。つられて見ると、ツナギのアソコの部分が食い込んで縦スジが浮かび上がってる。
なんか会社の連絡ミスで、今日の午後に伺うはずの同じアパートの松田さんという人の見積もりと林葉さんと混乱して来ちゃったみたいなんです。新しい会社だから、いろいろあって、、、。
それで見積もりはしてくれるんですか? と僕。
えぇ、もちろんと、彼女。
入室してよろしいですか? と池田エ◯イ◯にそっくりな村田悠美さんが聞く。
どうぞ。
わたし達、女性の依頼には女性スタッフが男性の依頼には男のひとが来るようにしてるんです。いまどき、うるさいでしょう?そういうの。
僕は構いませんよ、そんなこと。
むしろ、女性、大歓迎です。
室内に入るなり、目で風呂場やキッチンなど、いろいろなところをチェックしながら携帯に個数を書き込んでいた「赤猫さんのクイック引越し便」社員の悠美さんが、こちらを振り向いてにっこり笑ってくれた。かわいらしかて、ドキドキした。
さっきまで眠り呆けていた1つしか無い8畳の部屋に入る。
きれいにしてますね、と悠美さん。
僕は吹き出しそうになった。
これでですか?
えぇ、女性の一人暮らしの部屋によく伺うんですけど、もう、それはひどいの。いつもイヤになっちゃう。
僕は内心、そんなこと言って大丈夫なのかな?運送会社勤めの自覚がないのかなと思ったけれど、本音を言ってくれたことで、打ち解けた気分になった。
ちゃっちゃっと見積もり作りますね。
引っ越し先は名古屋の会社の寮ですね。
ちょっと待って、今、検索するから。
すぐに住所出てきたわ。高速降りてすぐだし、同じワンルームだし、、、と言いながら、画像検索も。
きれいなマンションじゃない。羨ましいなっ。
そう言いながら、距離や経路の計算をする彼女。
林葉さん、お部屋もきれいだし、梱包もしてくれそうだし、お安くしておくわね。
そう言うと、立ったままの姿勢で見積もりの明細を作って見せてくれた。単身ワンルームパック割引で5万ちょうどだった。
いいかしら?
本契約してくださる?
それとも他社見積もりしてもらいますか?
僕はその場で契約書にサインして、前金を1万円渡して、引っ越し完了日当日に残金4万を振り込むことにした。立て替えだけど、会社が全額持つのだから、金額なんてどうでもよかった。
池田エ◯イ◯似の村田悠美さんは、にこにこしながら、契約書をクリヤーブックにしまって、ありがとうございますと丁寧に頭を下げた。
ふつう40分ぐらいかかるところ、10分で済んじゃった。林葉さんが即決してくれたから。感謝しなくちゃね。
時間に余裕できたなら、お茶でも飲んでゆっくりしていきませんか? 午後も忙しそうだし、すこし休んだら?
僕はさりげなく誘ってみた。
林葉さん、優しい、、、
わたしも正直、ちょっと休みたかったの。
そう言うと、ペパーミント色のカーペットを敷いている床にぺたんと座った。お尻をつけた女の子座り。それだけで打ち解けた感じがした。
すると、その姿勢のまま、離れたところに散乱していたプラスチックケースに手を伸ばしている。
ヤバイ、夜、見たまま放り出していたエロDVDのケースだ。
それを全部、手にとってしげしげと見る悠美さん。6枚ぐらいある。
これ面白そうですね?
そう振り返って見る彼女はいたずらっぽい笑顔。
たしかに作品名は面白そうだけど、ろくな内容じゃあない。僕は内心慌てた。
「パコパコじゅるじゅるバスツアー」ってなんですか?
どんな内容なの?
面白そうですね~
無邪気に笑いながら1枚1枚、パッケージを眺めてる。
へぇ~、これ、シリーズものなんですね。
わたしAVって一度も見たことないんですよ。
よかったら、見せてくれません?
僕はこの言葉に慌てた。笑いを誘う題名だけど、中身はハードな乱行ものだ。AV未経験者には刺激が強すぎる。
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