ある会社の思い出119
社員寮51
冷たいビールがずっと火照りっぱなしだった自分の体を内側から冷ました。
居間の大きなガラス窓から、夕暮れの小さな街の景色が見えた。
まだこのマンションの周りがどんなか、全然知らない。駅からここまでの道沿いは見たけど、コンビニがどこにあるのか、スーパーがどこにあるのか、全然わからなかった。
僕はほろ酔い気分のまま、携帯とお財布だけを持って、ふらっと散歩に出ようかなと思って、靴を履いてから、美久ちゃんが眠りから覚めて心配するといけないと思いなおした。
紙を探してもなかったから、居間から回り込んだ隠し部屋みたいなキッチンのキッチンペーパーを引きちぎった。
ペンも見つからなかったから、指先を水で濡らして。おさんぽと書いた。シナモンの粉を振りかけて、完成、、、
それを雲形定規みたいなオシャレなガラステーブルの上に置いて外に出た。
玄関の扉が閉まる時、自動ロックでカシャリと音がした。あっ、閉まっちゃったと思った。真知子がどの部屋の扉も林葉さんのために空いてると言ってたから、油断した。
でも、また美久ちゃんが開けておいてくれるかも、、、そんなことを思いながら、建物の中央にあるエレベーターに乗ろうと思ったけど、3階なのにエレベーターなんて馬鹿馬鹿しいなと思った。
エレベーターの脇に1人歩くのがやっとみたいな幅が狭い階段があった。2階まで降りた時、部屋から出てきたばかりのかわいらしい女性とばったり目があった。目があった途端、僕は恥ずかしくてどうしようもなくなった。
だって、さっき、自分の部屋で女優さんがほんとに犯されちゃうヤバいAV見ながら、立ちオナしてた二木乃八重そっくりの、、、さあちゃんだったから。
ええと、名前は、、、佐川じゃなくて、佐田じゃなくて、、、思い出せないと、思っていたら、彼女の方から名乗ってくれた。
(瑠衣未)
「わたし、佐久瑠衣未と言います。林葉宗介さんですよね?」
(僕は心の中で、真知子が「彼女、ある会社の重役のお嬢様よ、、」と言っていたのを思い出していた。たしかに僕と同じTシャツにジーンズ地のショートパンツなのに、全然違う。垢抜けてる。
イタリアG社の3色ラインが肩から腕のところまでさりげなくプリントされたTシャツ。ジーンズ地のショートパンツにはフランスのJPG社の革タグが付いてた。
髪型から顔の感じまで、富士見坂の二木乃さんソックリだったけど、佐久瑠衣未の方が気品があった。
ちょっと間が空いちゃってから、僕はちょっと間抜けな挨拶をした。
「そうです。301号室に引っ越してきた林葉です。よろしくお願いします」
(佐久瑠衣未)
ぜ~んぶ 知ってるよ
だって、寮長からも社長からも聞いてるから、、、
というより、わたし、待ち侘びてたの、あなたと会う時を、、、
お散歩でしょ?
一緒に行こ
佐久瑠衣未は僕の手を取って、僕を引っ張るようにして階段を降りていく。
僕は彼女のサラサラの髪の毛が階段を降りるたびにふわっと広がってから、スッと落ち着く度に、なんだかワクワクする気分になった。
彼女が先に一階の地面に降り立つと、くるりと向きを変えて、僕を見つめた。急に甘える目で僕を見ながら腕を首に回してきた。顔を寄せて、頬を僕の頬と擦り合わせた。その柔らかい頬に僕は感動した。彼女の腕の位置がもう僕のウェストに移動していて、強く引き寄せられた。
柔らかなおっぱいがつぶれるくらいの勢い。
彼女の左膝が僕の腰のあたりまで上がってきて、細い脚を巻きつけてきた。
頬を僕の頬に密着させて、顔を見せないまま、彼女は小さなちょっとくぐもった声でささやいた。
「此処でして、、、」
えっ?
と思わず聞き返す僕に、、、もう一度彼女が囁く。
「此処でしてほしい、、、」
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